第12話『純白の兵士』

 ユイは、野華ひろかさんに氷をたっぷり貰って、ゴリゴリと幸せそうに齧っている。


 ……こいつ、あんなに氷を頬張って、頭が痛くならないのかな? ……と思った矢先、案の定、頭を押さえて顔をしかめた。 ……ユイは細胞の配列を俺達人間と全く同じにしているから、そりゃ痛くなるよな。 ……教えておけば良かった。テヘペロ〜 ←死語


 ま、こいつの事は放っておいて、俺達は王牙おうがの手下と話をする事にした。 この異常な状況を理解したかったからだ。


 ……王牙は野華さんが掛けてくれたタオルケットを抱くようにして、いびきをかいて眠っているので、こっそり手下の連中を、俺達を挟んだ反対側のテーブルに移らせた。


 ……ココアのコップを持ってコソコソ移動する彼らの姿はちょっとかわいい。


 ……バウンティ・アーミーの連中は衛鬼兵と違って、俺達と殆んど変わらない姿をしている。 耳の形が少し違うくらいだ。 ……言葉も通じる。←ご都合主義


 ……早速、落合さんが「皆さんは、私の事をご存知ですか?」と聴くと、全員が頷いた。


 落合さんが続けて……「今のこの世界は、私がイメージしたものや、こちらの『矢主やぬし 佐奈さな』さんがイメージしたものがゴチャ混ぜになっているようですが、皆さんは何かお気付きですか?」と聴いた。


 手下の中でもリーダーっぽい奴が話し始めた。


「コマイ先生が一番良くご存知でしょうが、我々は、貧しい星に生まれ『王牙一族』の命令に従ってかねの為に戦う、賞金稼ぎを生業なりわいにしている ……と言う設定の『登場人物』です」


「えっ! 自分達が『登場人物』って自覚してるの!?」……と、俺が思わず大声を上げると……


「はい。 何か変ですか?」……と逆に言われた。 ……そう言われると、いっそ清々しい。←久しぶりのフレーズ 


 ……そういう人生もあるんだろう、きっと……と納得した。


「……通常は、王牙様から『すめらぎ宇宙軍の月面基地を破壊しろ』とか、とても具体的な指示を受けてから作戦会議を開き、入念に準備したのちに出撃するのですが、今回は気が付いたら、既に全艦隊がこのお店を包囲していて、王牙様に『行くぞ』……と命令されて、訳も解らぬままにお邪魔して……。 その後は皆さんがご覧になった通りの、この有様です」……と照れくさそうに自分の姿を改めて見て、ため息をついた。


 そんな中、俺達は、妙な兵士が居るのに気が付いた。 


 あまりにも存在感が無かったのでスルーしていたが、フルフェイスのヘルメットをかぶり、服も他の兵士のように薄衣では無く、純白の直線的なスーツを着ている。 ……よくよく思い返してみると、この兵士は、最初から全く変化が無かったように記憶している。


 ……そう言えば、アイスココアも無い。


 佐奈ちゃんが……「あの……何か召し上がらないんですか?」……とその兵士に声をかけたが、全く反応が無い。


 リーダーが口を開いた……


「あのぉ〜……この人、さっきから一緒に居るんですが……」


 そして落合さんに……「コマイ先生……この人……何方どなたです?」……と、真顔で聴いた。


 落合さんは……


 「さあ?」……と即答した。


 …………


 ……だ……誰?

 

『純白の兵士』は、相変わらず微動だにせず着席したまま……だ。

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