第10話 空中戦艦

 ……野華ひろかさんは、見た目は変わっていないが、俺と同じように別人になっている事を自覚しているのは確かなようだ。


 そう言えば、先程の落合さんの話では、今回の現象は『イメージ』がそのまま実体化したらしい。 ……野華さんは、落合さんが初めにイメージした『サン・クリスタ女史』そのものだから『見た目に変化が無い』というのは、理にかなっている……と言えるだろう。



 ……などと考えていると、突然『グオーン、グオーン』と轟音が響き、お店の壁が大きく振動した。 慌てて立ち上がり、窓から外を見ると……


 な、何と、空を埋め尽くすようなおびただしい数の『空中戦艦』らしき物体が、この店を取り囲んでいる!


 落合さんが一言『……バウンティ・アーミー!?』……と呟いた。 『バウンティ・アーミー』とは、落合さんの小説の主役『すめらぎ宇宙軍』と交戦中の軍隊だ。


 ドアを乱暴に開き、見慣れない集団が店に入って来た。 


 銃らしき物を構え、あかぐろアーマーを身に着けた数名を従えた目付きの鋭い女性? が、悠々とこちらに歩み寄って来た。


 ……目標はユイのようだ。 俺たちには一瞥いちべつもくれず、真っ直ぐユイに視線を送り、銃口を向けて歩み寄る。


「貴様……何奴なにやつ……所属と階級を申せ……」……と、ユイがいつもよりドスの利いた声でその女性に言った。


 すると、女性が答えるより先に……「王牙おうが……刀弧とうこ!」……と、落合さんが呟いた。 そして……


「ユイさん! 離れて!」……と叫んだ!


 女性は、ユイを見詰めたまま……「コマイ先生…… 貴女あなたうるさくてよ」と慇懃無礼に言った。


「ユイさん! この女性ひとは私が書いたキャラクター『王牙 刀弧』! ……危険人物です!」


 ……ユイは食べかけのスープを前にして、王牙に負けない鋭い視線で対抗していたが「落合、安心せい……此奴こやつ、目付きは悪いが殺気は無い。 加えて……何かを恐れているようだ」と言って、いつもの不敵な笑みを浮かべ、再びスープを幸せそうに食べ始めた。


 王牙が立ち止まり……「ほ……ほぉ〜、わたくしが、何かを恐れている……と?」……と言った。 明らかに動揺している。


 野華さんが……「王牙……さん? 初めまして。 私がこの店のシェフ『サン・クリスタ』です。 ……さ、お友達の物騒なお荷物は置いて、席にお座り下さい」……と物怖ものおじせずに笑顔で言った。


 ……!


 その瞬間、彼等が携えていた銃や、触っただけで怪我をしそうな刺々とげとげしいアーマーが消滅した。 そして、王牙を含めた彼等全員、絹のような白い薄衣にくるまれた!? 映画に出てくる『神様』のような穏やかなちだ。


 王牙が自分や部下の変容を見て「くっそ、マジか! この場所は本当に『永世非武装中立区域』だったのか!」……と悔しそうに言った。


 野華さんが笑顔のまま穏やかな声で……「はい。 当店を中心とした100エーカーの範囲は、いにしえより『メシアーンズ法憲ほうけん』に定められた『絶対的非武装区域』です。 ……因みに『中立』ではありません。 『法憲評議会』で『武装』と認定された物資は、全て強制的に『銀河の清き流れ』に移送され、今、皆様がお召しになっているお服のように邪気が無くなるまで清めてから返却させて頂いております」……と言って、丁寧に頭を下げた。


 それと時を同じくして…… 『ビビーッ ビビーッ』……と、王牙の腰に付いていた装置がけたたましく鳴った。 通信機のようだ。 ……通信機は『武装認定』されなかったからそのままだったらしい。


「何だ!」……と、王牙が怒鳴るように通信機に言うと、店中に響く程の大きな返答が帰って来た。


『王牙様! 我が軍の80%が……消滅してしまいました! 代わりに雲に乗った白いフワフワした連中が……ま……舞い踊ってます!』

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