第8話 証明

 ……そもそも、ここは……何処どこだ?


 野華ひろかさんの部屋からはじき飛ばされたのは覚えている。


 絶対防衛A・Dを解除した直後だから、場所的には野華さんの部屋……しくは家の前のはずなのだが……


 ……そこには、一軒の小屋? が建っていた。


 看板には……


 ……サン……ク……リス……タ……


 ……!


 ま、マジかよ……


『スープ専門店 サン・クリスタ』!


 野華さんの家が、落合さんの小説に登場した『サン・クリスタおばさん』の店になっている……!


 ふと見ると、少し離れた場所から、落合さんが小屋と看板を見ている姿があった。


「落合さ〜ん」と言って近寄ろうとしたが、また逃げそうになったので俺はその場で立ち止まり……


「落合さん! 俺です! 『すめらぎ宇宙軍うちゅうぐんの『刀根とね 朔也さくや』です!」……?


 落合さんが「……ど、何方どなたか存じませんが、私の『皇』には、その『トネ? サクヤ?』なんてキャラは登場しません!」……と言って、後退あとずさりした。


 そんなり取りを注視していたユイが……「ちょっと待て……。 貴様……何故なにゆえあたしたちや落合を知っている?」


 ……と言って近付いて来た。


 !


 そうだ! 一つだけ、俺が『たいら 盆人はちひと』だと証明する言葉があった!


「ユイ……梅干の種は、普通食べないぞ」


 ……それは、俺とユイ、そして情報参謀が、野華ひろかさんと俺を『幼なじみ』にする為、歴史を変えに戦国時代に行った時の事だった。 ユイが、仕出しのおにぎりを、梅干しの種ごと食べていて、俺はユイが怒りの為に『歯ぎしり』していたのと勘違いしていたのだ。


 その事を知っているのは、俺とユイ……あとは読者の方々だけだ。


 ユイの表情が崩れ始め……泣きながら俺に抱きつこうとして、紗奈ちゃんの存在を思い出して、慌てて立ち止まり……


「落合! 矢主やぬし! こいつは『兄』だ! 見てくれは変わっているが、間違いない! 『衛鬼兵団総司令 平 盆人』だ!」


 ……と言って、飛び切りの笑顔で涙を拭き取った。


 落合さんが……「私からも一言……質問させて頂いて良いですか?」……と言って……


「……さっき、ヒロコさんが作ってくれたお料理を憶えていますか?」


「ヒロコ? 野華ヒロカさんですよね? ポトフ……美味しかったですよね」


 落合さんの目からも大粒の涙が溢れ、俺に近づこうとして、紗奈ちゃんの存在を思い出して、慌てて立ち止まった。


 ふ〜! 取り敢えず、俺が『平 盆人』だという事は判って貰えたようだ。


 ……それより何より、俺は野華さんが心配だ!


 3人で『サンクリスタおばさん』のお店に入ることにした。

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