第4話『スープ』

 落合さんが目を閉じて「ごめんなさい!」と紗奈ちゃんに謝った。


「そんな! 気にしないで下さい! 先生が謝る事はありません!」……と、紗奈ちゃんが立ち上がって、両手を音が鳴る程、ブンブン振りながら言った。


 ……確かに俺の記憶でも『サン・クリスタおばさん』が作るスープは、だんだん複雑な物になって来て、味を想像する事が出来無くなって来てたかも。 それでも充分面白かったけどな……。


 もっとも……俺は牛丼や焼鳥専科だから、コーンスープくらいなら判るが、ミネストローネ?(←誤)辺りになると怪しくなってくる。


 でも、紗奈ちゃんは、以前も書いたが『矢主やぬし財閥』のご令嬢だ。 知らない料理なんて無いだろう。 ……現に、この前も、自慢や嫌味では無く「ご馳走は食べ飽きた」って言ってた位だ。


 その紗奈ちゃんが、味が判らないって言うくらいだから、本当に難しいスープになって来ちゃったんだろうな。


「……私の才能の無さが招いた事ではあるけど、俗に言う『ネタ切れ』になっちゃって……それに……人気もどんどん落ちちゃったから、モチベーションが無くなっちゃって……」と、落合さんが力無くポツンと言った。


「私はそうは思いません! 『サン・クリスタおばさん』は、この『世界』に必要なかたです! まだまだ人気はある筈です!」……紗奈ちゃんは、またまた涙を浮かべ、必死に訴えた。


「矢主さん、本当に、本当に有難う。 ……ただ、矢主さんは『サン・クリスタおばさん』と『すめらぎ宇宙軍』……どちらが先?」


「私は『皇』から……です」


「……『皇』は、矢主さんのような皆様のお陰で、たくさんの応援点数を戴きました。 ……確かに、『皇』を書いた後、『サン・クリスタおばさん』の購読者数も上がったんです。……でも……」


 ……落合さんの話によると……読者数や感想から、自分なりに分析した結果、今『サン・クリスタおばさんのスープ』を読んでくれている人は『皇宇宙軍』のファンの方が中心で、以前からの方は、残念ながら離れて行ってしまい『皇』は読んで貰えて無いそうな。


「私の、この二つの作品は、全くの正反対なんです。 ……『サン・クリスタおばさんのスーブ』は武器では無い物をにする物語。 逆に『皇宇宙軍』は、世界を滅ぼす程の武力を持った軍隊が、矢主さんくらいの子の『片想い』を叶える為に奮闘する……って物語……。 『皇』から読み始めた人は、正反対の『サン・クリスタ』を『意外性』で面白く読んでくれるけど、『サン・クリスタ』を好きな人は、ストーリーのギャップに、着いて来られなかったみたいです」


 ……俺は『サン・クリスタ』から入った読者だけど、超面白かったけどなあ。


 ……!


 ……あ、そうか! 俺は『皇宇宙軍』みたいな『衛鬼兵団』とつるんでるから違和感を覚えないけど、普通の人は俺ほどすんなりと受け容れられないのかも。


 ……本当に……誰が悪い訳ではない。 無料とは言え、読者の方々はクールだ。 面白ければ詠む。 つまらなければ去る。 ……いやむしろ『無料』だからこそ、読んだり読まなかったりを気楽におこなえるんだ。


 作者のかたもそうだ。 無料とは言え、読者がいるからには、面白く読んで貰おうと必死になる。 ……だが『無料』だからこそ無理をしてまで執筆はしない。 あくまでも『趣味』として書いている訳だ。


 結婚を控えて、ちょっとナーバスになっているにも関わらず、落合さんは、楽しんでくれる読者の為に、自分の作品をより良い物にしようと真摯に頑張っていたんだね……。


「皆様! お待たせ致しました〜!」……と、気が付けば中座していた野華ひろかさんが、お鍋を手に、いつも以上に華やいだ笑顔で、お鍋を机の上に置いた。


「『首脳会談』は、ちょっとお休みにして、召し上がりません?」……と言いながら鍋の蓋を開けると、柔らかい湯気が上がり、野菜やソーセージがたっぷり入ったスープがお目見えした!


 落合さんと紗奈ちゃんが声を合わせて……


「『ポトフ』だあ〜!」


 ……と言った!


 それと同時に、ユイがガバッと目を覚まし、まだまだ寝ぼけまなこで……


「ポ! ポトフポッド・オフ!? 臨戦態勢か!? 参謀長〜〜!」……と言って、持ってもいない銃を構えた。


 …………。

 

 全員の視線がユイに集まり、暫く無音の時間が流れ……


 ユイが……


「す、すまん! 面目めんぼくない!」と、またまた俺の死んだ爺ちゃんみたいな台詞せりふを言って、頭を掻きながら席に付いた。


 ちょっと重くなりかけた空気が吹き飛んだよ。 ありがと、野華さん、ユイ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る