第3話 会談

 紗奈ちゃんが、野華さんにくっついたまま、落合さんがスマホに何かを入力している姿をキラッキラの眼で見ている。


 ……それに気付いた落合さんが「あ……ごめんなさい、矢主さん! ……私、昔から夢中になると周りが見えなくなっちゃって……」……と言って、スマホから手を離して苦笑いした。


 紗奈ちゃんが、首をブンブンと振り回し……「いえいえ! そのままお続け下さいませ」……と言った。


 ……「私……書き込みでは自分の作品の感想とか読んだ事があるけど、生の声は聴いた事が無いんです。 野華さんが、今日は私の作品を好きな方に合わせてくれる……と言うのでお邪魔しました」


 紗奈ちゃんが「コマイ……いや、落合先生は、どうしてあんなストーリーを思い付かれたんですか?」……と、緊張した感じの声で聴いた。


「『コマイ』で良いですよ(汗) 落合は受付のおばちゃんだから……」


 ……落合さん……貴女あなたがおばちゃんなら、野華さんもおばちゃん……俺に至ってはおじいちゃんだ! ←言い過ぎ


「私は、以前からミステリー小説が好きで、コナンや推理ドラマを良く観てました。 そのうち、絶対に『兇器』として使えない筈の物で事件を起こせたらどうかな? ……とか考え始めて。 ……まあ、それは結局書けなかったんですけど、その時、同時に思い付いたのが、正反対に『強大な戦力』を使って『成績を上げる』……とか『恋を叶える』……とか、超超小さな事を叶えたら面白いかな……って事でした。……それが、今の『すめらぎ』になった訳です」


 紗奈ちゃんが、落合さんの一言一句も聞き漏らすまいと『全集中の呼吸』で聴いている ←流行りに乗って書いたつもりが、用法を間違えて恥ずかしいという例


「そんな時……『ある事』がきっかけで『お料理好きのおばあちゃんが作ったスープが、世界を動かす』ってストーリーを書きたくなって……それで、初めて長編のWeb小説を書いたのが……」


「『サン・クリスタおばさんのスープ』! 面白かったですぅ!」 ……紗奈ちゃんのテンション、過去最大級へ!


「は、恥ずかしい……」 ……落合さんの恥じらい、過去最大級へ!


「ZZZzz……」 ……ユイの出番の無さ&いびき、過去最大級へ!


「……でも……急に人気が落ち込んで来て……矢主さん、お尋ねしたいんですけど、『サン・クリスタ』を読んで、何か感じました?」


「いいえ! わたしは面白かったです! ……あっ……」


 ……?


 紗奈ちゃんのテンションが右肩下がりに落ち込んだ。


「なあに!? 教えて! お願い!」


「……い、いえ……これは、コマイ先生のせいでは無いので……」


「それでも良いから教えて!」……と、落合さんが、手を合わせている。


 紗奈ちゃんがうつむき加減に言った。


「……あの……私だけの事なんで、お気にしないで貰いたいんですが……」


「はい……!」落合さんが座り直した。


「……スープの『味』が……判らなくなっちゃって……」


 ……!


 ※某新型肺炎の症状ではありませんので……念の為!

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