第2話『退役軍人』

  その女性ひとを見て、ユイと俺が同時に声を上げた。


「落合さ〜ん」

「落合〜」


 野華ひろかさんの部屋に入って来たのは『鷹音野華攻略作戦』で『鷹音ようおん野華ひろか親衛隊兼衛鬼えいき兵団アティロム分隊』だった落合真子さん(作戦終了の為、退役)だ。


 野華さんや長瀬の婚約者、青木さんと仲が良く、偶に話に出るが、最近はWEB小説執筆に行き詰まっていて、辞めようか……と悩んでいると聴いて、ちょっと心配していたんだ。


 藤岡さんとの結婚も控え、精神的にも少しだけナーバスになっている……とも聴いた。


 ……そう言われてみれば、以前合った時と比べて、ちょっと痩せたようにも見える。


 落合さんと佐奈ちゃんが初めて顔を合わせ、不思議な表情のまま、笑顔で軽く会釈し合った。


 落合さんが「こちらの方は?」と、小声で野華さんに聴いた。


「こちらは『矢主やぬし 佐奈さな』さん……盆人はちひと……たいらさんのお住まいの大家さんの、お孫さん」と言って、紗奈ちゃんの背中に手を合て……「このお嬢さんは、WEB小説『宇宙戦争勃発! イケメン司令官!?』の大ファン!」


 落合さんの、ややこけた頬が、見る見るうちに紅潮して、はにかんだ。


 次に野華さんは紗奈ちゃんに落合さんを紹介した。


「こちらは、私と同じ部署で仲良しの『落合 真子』さん! ……逆から読むと……」……と、いたずらっぽい笑顔で、紗奈ちゃんに教えた。


 佐奈ちゃんが上を向いて考えながら、名前を逆から読み上げた。


「コ・マ・イ・ア……チ……オ!? え、うそ!  嘘! 嘘! 嘘! マジ〜!?」……と、おおよそ普段の佐奈ちゃんらしくないリアクションをとり、野華さんの腕に抱き付いて、かなり取り乱している!


 落合さんが照れながら「は、初めまして『コマイ・アチオ』……です……」と言うと……


「キャー! コ、コマイ先生〜!」……と叫んだあと、興奮したまま、野華さんに抱きついて顔を埋めた。


 へえ〜っ、大人しい性格だと思ってたけど、こんなに感情を出せるんだな〜……と、驚いたけど、ちょっと嬉しかった。


 因みに、貴女あなたが抱きついてるその女性ひと……次期、大手アティロムの顔になるかたですぜ!←心の声


 ……野華さんは、紗奈ちゃんと落合さんが向い合わせになるように席を作り、フリータイムに突入した。


 ずは落合さんに、衛鬼兵団と俺のストーリーを話した。 落合さんの驚きようったら無かった。


「こ……これはまさにアカシックレコードの証拠!?」……と言って、落合さんが、スマホを取り出して、何かをメモした。


 ……その時の落合さんの表情はとても楽しそうで、藤岡さんの部屋でWEB小説の話をしていた時の『眼の輝き』を取り戻していた。

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