第6話 Don Alonso Quijano

 こ!ここ!ころ!ころろ!こころ!←(混乱)のクラスメイト……って……平たく言えば『実在しない』ってここ!ころ!ことぉ!?←(混乱)


『バッチ〜ン!』……ユイの平手打ちが俺の背中を襲い、軽快な破裂音が鳴り響いた。


「仮にも、衛鬼兵団の司令官が、何を混乱しておる!?」


 ……文字通り『仮』の司令官だけども! これは混乱するでしょーが! 


「だって『利根とね朔也さくや』って人間は、存在しないんだよ? 佐奈ちゃんが、空想の中で創り上げただけの存在だ。 ……どうやって『恋人』にするんだよ!?」


「馬鹿者! 我等は『仮想Hypothetical emery』との『仮想戦闘Simulation』を常時繰り返しておる。 やぬしの願いを叶えるなど、ようおんの茶を冷ますよりも、遥かに! 遥かに容易たやすかろう!」


 あ、また野華ひろかさんのお茶を引き合いに出した。 こいつ……余程熱かったんだな。


 ……それにしても……違うんだよなあ〜、解ってないんだなあ〜…。


「『人間』は、『仮想Hypothetical emery』とは違う。『領土面積』や『軍事力』、また、戦争が始まったとしたら、どの軍隊が敵対してくるか……みたいに『数値化』出来るものじゃない! もっと複雑で、もっと深いものなんだ!」


 ……ユイが俺を睨みつけている。 俺も『ここでひるんだら負ける』ので、ユイの目を睨み返した。


「ま、待って下さい!」


 ……佐奈ちゃんが、泣きながら二人の間に割り込んで来て……


「ごめんなさい! わたしが変なお願いしたせいで仲の良かったお二人が喧嘩しちゃうなら、もう良い! もう良いです! 」


「や、やぬし、待て待て! 喧嘩などしておらん! な、なあ兄!」……と言って、ユイが俺と腕を組んだ。


 いててて! ユイは相変わらず馬鹿力ばかぢから! 機嫌が悪いから、いつもより輪をかけて痛い!


「そ……そうだよ! ……これは『口論』……じゃ無かった『論説』だよ『論説』!」


 このままユイに逆らったら、大切な左腕が、もぎ取られかねないから、泣く泣く迎合した。



「佐奈ちゃん……その、実在しない彼氏……『利根とね朔也さくや』君と、恋人になりたい……んだよね……?」


「……わたしも……無茶言ってるって言うのは……わかってます。 ……だからこそ……わたしは『コマイ先生』の作品が大好きなんです。 ……『すめらぎ宇宙軍』は、主人公の『スズキ ノリコ』ちゃんの『妄想彼氏入手プロジェクト』を、全力で闘い抜いてくれたから……わたしも『衛鬼兵団』の皆さんに、淡い期待を持ってしまったんです……」……と言って、涙を拭いた。


「兄! 聴いたか! やぬしは、あたし達を見込んで頼ってくれたのだぞ!? これで却下したら、それこそ衛鬼兵団の名折れぞ!」……と、ユイが綺麗な涙をめながら、俺に訴えて来た!


 ……ユイと佐奈ちゃん……2人の美しい涙を見たら、何とかするしかない……かあ……。


 ……俺は、昔、学校の図書館で読んだ『ドン・キホーテ』で、主人公が風車を敵に見立てて攻撃を仕掛け、従者のサンチョ・パンサが必死に止めようとしているシーンを思い出していた。

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