第4話 光線照射

「紗奈ちゃん……き、君は……まさか!?」


 ……紗奈ちゃんが吹く『笛』の音は、非常に小さい音だが、影響が無い筈の俺でさえ、不快な音色だった。 ……『ピー』とか『ブー』とかいう音では無く、『ギャーンギャーン』?……という表現が一番近いかも知れない。


 ……参謀達が耳を塞いで縮こまっている姿を見た紗奈ちゃんの顔から笑みが消え、キョトンとしている。


 ……佐奈ちゃんは動揺して辺りを見回していたが、横に居たユイが石化しているのを見付け……


「……あれ! ユ……ユイさん!……どうしたんですか? 大丈夫? 大丈夫ですか!?」……と言って、ユイの肩を掴み、必死に揺さぶっている。


 いや、どう贔屓目ひいきめに見ても大丈夫じゃねーだろう!


「多分、君の笛の音から身を護る為に、身体を石化させたんだ!」


「えっ!? この笛みたいのだけでは……何も起きませんよ」


 へ? ……と、俺はまた間抜けな声を出してしまった。


 確かに、いち早く危険が無い事を見抜いた情報参謀と通信参謀はケロッとしている。


 ……『笛の音』が無害な事が判り、参謀達がそそくさと動き出して、再び着席した。


 それと同時にユイの石化も解除され「す、すまん! 面目めんぼくない!」と、俺の死んだ爺ちゃんみたいな台詞せりふを言ったあと、興味深げに、佐奈ちゃんの指先にある『見えない兵器』に眼を向けた。


 ……さて、落ち着いた所で仕切り直しだ。


 佐奈ちゃんが再び語り始めた。


「……当然、今やると大変な事になっちゃうので、実際にはやりませんが、皆さんにお聴かせした、この見えない「笛」の音と、『バウンティ・アー……』じゃ無い……『斬鬼軍』が開発したソフトをインストールした端末から流れる音を同時に鳴らすと、その相乗効果で『すめらぎ宇宙軍』……じゃ無かった……『衛鬼兵団』の皆さんにとって、有害な音になるのでは無いでしょうか?」


 ……情報参謀が真先まっさきに近づき、紗奈ちゃんの手から、恐る恐る『笛』を受け取った。そして……


道理どうりで、いくら分析しても判らない筈だ……彼奴きゃつらなりに策を弄しましたネ」……と、情報参謀にしては、低めの声を発した。


 通信参謀が……「自分が、今、分析した所、この『見えない兵器』からは『2万8千5百21種類』の音色が発せられています。 ……これに、先程、矢主やぬし殿がおっしゃった、ソフトを“インストゥール”された端末から発せられる『1億6千8百50万3千3百69種類』の『混合音』、更にその端末の液晶画面から照射される『9千5百飛んで7種類』の『光線』が融合すると……ドンピシャリ! 自分の中枢器官にのみ悪影響を及ぼす『猛毒deadly poisonwave』に変貌します! こ、これは……大発見だあ!」


 議事堂が、大いにどよめいた。 確かに、これは凄い発見だ!


 情報参謀が一礼して消えたかと思ったら、例によって、すぐに現れ……「お待たせしました」……と、俺とユイに向かって頭を下げた


 はい! 待ってませんよ!


「……矢主やぬし殿のお陰を持ちまして『反猛毒deadly poisonwave体質化光線』が完成しました。 ……今から『衛鬼兵団全施設』に照射致します。 ……総司令と佐奈殿は、少し眩しく感じるかも知れませんので、一瞬、閉眼して頂きたく、宜しくお願い申し上げます」


 ……と言った。


 俺と佐奈ちゃんが眼を閉じた瞬間、一瞬だけ部屋が明るくなった。


「……ご協力有難うございました。 終了致しました」……と、情報参謀が深々と頭を下げた。


 ユイが、佐奈ちゃんの手を取り……


「やぬし! お主の助言で、我が『衛鬼兵団』は救われた! 心より礼を言う」……と言って、深謝した。 ……他の参謀達……更に議事堂の壁一面に表示されたモニターに映し出された衛鬼兵の面々が、全員、佐奈ちゃんに頭を下げた!


 そしてそのあと、盛大に拍手、拍触手した。


 ……拍手喝采かっさいの轟音が鳴り響く中、佐奈ちゃんは真っ赤になって、俺の後ろに隠れてしまった。


 ……引きこもりの中学生が、唐突に、こんなスタンディングオベーションの渦中に立たされたら、当然、こうなるよね。


 そんな佐奈ちゃんに、俺も……


「君は、この称賛を浴びるに相応ふさわしい『偉業』を成し遂げたんだ。 胸を張っていいよ。 ……司令官として、俺からも礼を言うぜ! ありがとう!」


 ……と格好つけて言ったが、拍手の音にき消された(恥)


 ……それにしても『三編み』のホンの少しの違いからこれ程の大発見をする……なんて……。 ……普段からてきとーに生活している俺と違って、佐奈ちゃんはちゃんとした娘さんなんだろうな。 それなりに度胸もあるし、洞察力や推理力も中々だ。



 ……称賛が落ち着いた頃を見計らって、俺が挙手し「参謀長」と名指した。


「はっ」


「今回の、矢主さんの功績は『勲一等衛鬼兵大綬章』叙勲確定ですよね?」


「総司令閣下の仰せの通りに御座います」


「では、それに『副賞』を贈呈したいのですが、宜しいですか?」


「はい。何なりと」


 ……参謀長が頭を下げた。


 俺は、後ろに隠れている佐奈ちゃん……嬉しいのか悲しいのか良く判らない複雑な表情でハンカチで鼻を抑えている佐奈ちゃんの背中をそっと支えながら……「さ、お願いを言ってごらん……」と言った。


 佐奈ちゃんは、上目遣いに俺を見ながらコクッと頷き……


「お、同じクラスの『刀根とね朔也さくや君と……お友達にして……下さい……』


 ……と、蚊の鳴くような声で言った……。


 ユイが「ん? ともがら程度で良いのか? 兄と鷹音ようおんのように『ツガイ』になりたいのでは無いか?」……と、ユイにしては珍しく、優しい口調で言った。


 ……佐奈ちゃんは、それを聴いて……


「……わたし……前からずっと、ずぅ〜っと朔也君が好きで……でも……朔也君は遠い存在……だから……」……と、鼻を啜りながら言った。


 ……その姿は、年齢も性別も全く違うが、以前のおれと、全く同じだ。


 ユイの言葉に背中を押され、佐奈ちゃんが一歩前に進み出て、涙で濡れた顔を拭きもせず、参謀達にはっきりとした口調で……


「お願いします! 同じクラスの刀根朔也君と、恋人にして下さい!」


 と言って頭を下げた。


 ……俺とユイはお互いの目を見て、微笑み合った。


 ユイは、その後、佐奈ちゃんに視線を送り、独り言のように呟いた。


「是非……我が衛鬼兵団の『軍師』として迎えたい!」

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