第7話 方便

 野華ひろかさんが、初めて『嫌い』と言う、否定的な単語を口にしたので、いささか驚いた。 ……でも、逆に言えば『何でも受け入れる女性ひとじゃ無い』ってことの証明でもある訳で……正直、彼女を益々好きになった。



 さてさて、いつの間にか野華さんの部屋に長居してしまった。 そろそろ戻らないと、大家さんたちが心配するだろう。


「『絶対防衛A・D』を解除するにはどうするんだ?」……とユイに聞くと……


「あ、『絶対防衛A・D』は、時間、空間、攻撃……その他、すべての事象から『絶対的』に隔絶するから、時間の心配は要らんぞ」……と言って、野華さんの膝を枕に横になった。


 ……こいつ、たらふく食べて眠くなったな!


「こ、こら! ユイ! 馴れ馴れしいぞ!」


 ……そう言った俺に、野華さんは、いつもの慈愛に満ちた笑顔に戻って、人差し指を口に当て、優しく『しぃ〜』……とポーズをとって、お茶目にウインクしてくれた。


 ……それを見ていた紗奈ちゃんが……


たいらさんと、鷹音ようおんさんがこんなに仲良くなれたのは『すめらぎ宇宙軍』みたいな『エイキ兵団』の力……って、本当ですか?」……と聴いてきた。


 俺はうなずきながら「恥ずかしいけど、そうなんだ。『衛鬼兵団』の連中が、俺と野華ひろかさんを結びつける為に、全力を出してくれたから、遠くから眺める事しか出来なかった俺が、こうして野華ひろかさんと付き合えるようになったのさ」


いな! それだけじゃないぞ」


 あら、お前、まだ寝て無かったのか! ……さては甘えたかっただけだな!


「やぬし……『衛鬼兵団参謀本部』の初軍議では『鷹音ようおん野華ひろか攻略計画』は却下されたのだ!」


 紗奈ちゃんが、大きな眼を更に大きく見開いて驚いた。


「……それを兄は『争い』では無く『言葉』で勝ち取った。 ……あたしたち『最強の兵団』から……ね」


 ……ユイ……あの時、俺は諦めてたのに、必死に参謀達を叱咤してくれたのはお前だったじゃん……。 衛鬼兵団こいつら、『方便ほうべん』まで使えるようになったのか!


 ……紗奈ちゃんが座り直し……


「お願いします! わたし、どうしても利根とね朔也さくや君と……せめてお友だちになりたいんです! わたしも頑張りますから、どうか、どうか、お手伝いをお願い致します」……と、深々と頭を下げた。


 俺は「そんなにかしこまらなくて良いよ! 何せ……」……と、紗奈ちゃんに、おどけた調子で笑いかけた後、自分を指差して……「これが、司令官だから!」と言うと、俺の言い方が面白かったのか、全員が吹き出した。

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