第6話 嫌い
……俺の『“コード・
……俺は……いや、俺たちは、信じられない場所に居た。
俺の横では、ユイが目をパチクリさせながら野華さんの部屋を物珍しげに見廻している。
更にその横には、バツの悪そうな顔をした佐奈ちゃんが、膝を
「…………?」
……何が起こったのか、さっぱり判らない俺が声も出せずに完全静止状態でいると、その混乱を落ち着かせるかのような、この世に存在する全ての『
……そちらの
……! !!
ひ、野華さん!
「じ……情報参謀! せ、説明を……」
俺が『司令徽章』に回答を求めたが、ユイが「今、情報参謀との通信は
……かく言う俺も、戸惑いながら、見たことも無い茶器に淹れられ、スノードームを舞う粉雪のように美しく
「
……え!? 何で!? ……夢か!? これは夢なのかあ!?
野華さんは、微笑みながら首を横に振り……「夢ではありません。 この
……うわあ! 野華さんまでが、ユイや衛鬼兵みたいな小難しい事を口にし始めたぞお!
「これは、
……と言ってから、ユイは例によって紅茶をふぅーふぅー……と、必死に
「わたし……ホントに驚いたんです……」
……これまでうつむいてモジモジしていた佐奈ちゃんが口を開いた。
「最初に宇宙人が現れて、私に片想いの相手との仲を取り持つから『
そりゃそうだ。 中学性位のお嬢ちゃんがあんなバトルを観たら驚かない方がどうかしている。
「でも、わたし……やっぱり
ユイが「斬鬼軍も、随分とセコい攻撃をするようになったな」と言いながら、野華さんが、わざわざお手を
……「野華さん、ありがとうございます。……ユイ! ちゃんとお礼しろよ!」
「お、
野華さんが佐奈ちゃんに向かって「矢主さん、少し落ち着いたら飲んでみてね。 ……元気が無さそうだったから、敢えてティーバッグじゃ無くて、茶葉から淹れたの。 さ、ケーキもどうぞ! ……それとも……和菓子の方が良い?」……と、立とうとする野華さんを、佐奈ちゃんが、必死に止めた。
「いえ! ケーキと紅茶は大好きです! 遠慮なく戴きます!」……と言って、キラキラとそれでいて控えめに
「……!」……佐奈ちゃんが、空いていた左手で口を抑え、疲れからか少し窪んだ眼を大きく見開いて動きを止めた。
野華さんが「矢主さん! どうしたの? 大丈夫!?」……と紗奈ちゃんに擦り寄った。
紗奈ちゃんは、涙を浮かべながらも必死に手を振って……「ち、違うんです違うんです! こんな美味しいケーキ、産まれて初めて食べたのでびっくりしちゃって!」……と言った。
紗奈ちゃんは、近所でも有名な『矢主財閥』のご令嬢で、美味しい物は食べ慣れている筈だ。 その紗奈ちゃんが涙を浮かべるほど美味しがるとは……やはり野華さんの腕は相当な物なんだろう。 それを裏付けるように、紗奈ちゃんが語り始めた。
「わ、わたし、自慢じゃなくて、祖父や父母から世界中のご馳走とかスイーツとかを食べさせて貰っているから、美味しい物は食べ飽きちゃった筈なのに……まだ、こんなに美味しい物があったなんて……」
ユイが「ようおんの料理の腕は、我が皇帝陛下の『
……あの、愛だ恋だの何たるかも理解し得ない衛鬼兵が、遂に『愛』を語り始めた! ……これは今世紀屈指の奇跡かも知れない!
野華さんは……と言えば、耳まで真っ赤にして照れている。 ……色白だから、顔色の変化が如実に表れて、実に可憐だ。 ……改めて……大好きです。
野華さんのケーキの美味しさと、リーフティーの絶妙な淹れ具合との奇跡的なコラボに、ひたすら無言で堪能し、『ガリガリ』とユイが氷を噛み砕く音だけが響く野華さんの部屋だったが、ふと俺は重大な事実を思い出した!
斬鬼軍100体と戦闘中だった!
ユイが、立ち上がろうとする俺に……「あ、兄、斬鬼軍なら、兄の『“コード・
「え!? ホント!?」俺が間抜けに聴き返すと……
「本当だ。 あたしの『細胞配列変換』が解除されてるのが、その証拠だ。 ……それに……」
……ユイが久しぶりに例の不敵な笑顔を浮かべながら……
「史上最強兵団の司令官が発した『
「……俺……また大した事してないのになあ」……と独り言を言うと……
「
……野華さんが珍しく強い口調で言ったので、全員の視線が彼女に向けられた。 そして、照れながらも野華さんは、はっきりとした口調で、こう言った。
「私は……争いは嫌いです」
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