第5話 応酬

 至福の時間は終わりを告げ、別れを惜しみつつ、各々が再会を約束しながら、お開きとなった。


 落合さんは、今日は藤岡さんのマンションに泊まっていくそうだ。


 長瀬は、気を利かせてくれたのか、青木さんと早々に帰って行った。 今度、改めてお礼をしよう。



 俺とユイは……


 なんと、お迎えに来てくれた鷹音ようおんさんのお父さんに、駅まで送って頂くことになった!




 ……お父さんは、俺が先日、旅行の帰りにお送りした時のお礼に加え「娘が作った、不慣れな料理を食べさせてしまってすみません」と謝意を表された。 


「そんな! 何を仰られますやら!」……と、ご多分に漏れず、お辞儀の応酬が続いた後に、お車に乗せて戴いた。


 助手席でのナビを申し出たが「今度は私がちゃんとやります!」……と野華ひろかさんがおっしゃって下さり、後部座席にお邪魔する事になった。


 野華ひろかさんが助手席から「先日は、ナビすると言っておきながら眠ってしまって失礼致しました」と申し訳無さそうに言った。


 俺は「とんでもないです! 私の運転を信じて頂けて、こちらの方が有り難かったです」と恐縮して言った。


 ユイも俺に合わせて、微笑んで頭を下げてくれた。


 ……駅には、直ぐに到着してしまった。


 お父さんは「……うちは一人娘なものですから我儘に育ててしまって……。 もし、お嫌で無ければ、今度是非、家に遊びにいらして下さい」……と仰られた。


 鷹音ようおんさんは俺に「父は、たいらさんを余程、気に入ったみたいで、いつも噂してるんですよ」……と耳打ちしてくれた。


「え? なんで?」……と、敬語も忘れて鷹音ようおんさんに聴くと……


「……誠実だから……です」

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