第12話 『戦後……』

「……兄……」


「……?」


「……この『ジドウシャ』という装置は、もう少し速く移動出来ないのか?」


「これ以上、速くはならないよ。 ジェット機じゃあるまいし……」



 今日は、鷹音ようおんさんが海外旅行から帰って来る日だ。


*********************


 一ヶ月前の『夏祭り』で、すっかり仲良くなった俺たちは、オジカの社用車で鷹音さん御一家を空港に迎えに行く事にした。


 社用車初号は運転手の俺とユイ、弐号は運転手の長瀬と青木さん、落合さん、藤岡さんがそれぞれ乗車している。


 鷹音ようおんさん御一家は、俺がお送りする事になっている。


 混成部隊の皆さん! 本当に感謝です!


*********************


 ……移動に関して言えば、衛鬼兵えいきへいたちは、前哨基地から瞬間移動が出来るので、たかだか50Kmを2時間近くかけて進むのが退屈で仕方ないようだ。



 しばしの無言のあと、再びユイが口を開いた。


「……兄……」


「……?」


「……鷹音ようおんと兄が『ツガイ』になったら……あたしたちは別離するのか?」


「……!」



 ……運転中なので横を向けなかったが、今のユイの言葉は、心に深々と突き刺さった。


 衛鬼兵えいきへいは、戦いが無くなったら消滅する運命にある……と言うのは、以前、ユイに聴いた。


 現在、ユイが家に居るのは、俺と鷹音ようおんさんが、だ恋人になってないからだ。 もし、鷹音ようおんさんと俺が結ばれたら、その先は……


 考えたく無かった……。


 ……信号で停まったので、ユイの顔を見ると、こっちが寂しくなる程の切ない表情で、景色を眺めていた。


 俺は、横にあったエコバッグからおにぎりを取り出し「食うか?」とユイに聴いた。


 ユイは、表情をコロッと変えてうなずき、笑顔でパクついた。


 ……さっきの一言を聞いたあとの、ユイの愛くるしい笑顔が、俺にはつらかった……。

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