第10話 補給

 守屋神社の夏祭りは、『ザ・夏祭り』という表現がピッタリの、古き良き時代の情景に満ち溢れている。


 ユイは当然、戦場しか見てこなかったから、こういった『楽しむ為の場所』は不思議で仕方ないのだろう。 日頃の落ち着きが全く無く、辺りをキョロキョロと見回している。


 そこまで物珍ものめずらしいのか?


 ……いや、この落ち着きの無さは尋常では無い!


「ユイ、どうした?」


 ユイは大きな目に涙をいっばい浮かべ……


「ここには、おにぎりを販売している店舗は無いのか?」


 ……と言い、それと同時に、両の目からポロポロと大粒の涙が溢れ落ちた!


 ええ〜?? 泣くほどぉ〜??


「ユイさん! 大丈夫?」……鷹音ようおんさんが手にした可愛らしい巾着袋から、ポケットティッシュを出して、ユイの涙を拭いてくれた。


 ユイは、しゃくり上げながら、「すまぬ……。 感謝する」……と言って、鷹音ようおんさんにびったりとくっついた。


 それを見たとき、俺はある事に気が付いた。


 ……ユイは人体の細胞配列を完璧に模している。 その為、衛鬼兵えいきへいたちが、本来欠如している『愛』や『情』という『心』がしょうじ始めてるんだ! だから、優しくしてくれた鷹音ようおんさんに甘えたくなったんだ……。 俺はこの奇跡に少しだけ感動を覚えた。


 俺が「こいつ、今、両親と離れて暮らしてるから、寂しいんでしょう…… 馴れ馴れしくて申し訳御座いません……」と言うと、


「いえ、私は一人っ子なので、妹ができたみたいで、むしろ嬉しいです!」……と、ユイの肩を優しく抱いた。


 なっ! なんて良いかた! 菩薩か? 聖母か? 自由の女神か? あと……あとは誰がいたっけ? ←知識不足


 その時、そんなロマンチックな雰囲気を全崩壊へといざなう、ユイの腹の虫が雄叫びを上げた!


 鷹音ようおんさんが、ユイを抱きしめながら、必死に笑いをこらえている。


 ユイ……今だけその場所、俺と代わってくんない?


 「お〜い! ユイ閣下〜!」


 ふと見ると、長瀬と藤岡さんが、夏祭りの定番、焼きそば・たこ焼き・イカ焼きを、落合さんと青木さんが、綿あめ・リンゴ飴・瓶入りのラムネを買って来てくれた。



 補給部隊が輸送して来た食料の多さに、鷹音ようおんさんがえきれず笑っちゃっている! 


 長瀬が「たいらさんが、資金提供して下さったので、皆さんで戴きましょう」……と言った。 そうだ! さっき長瀬に軍資金を渡しておいたんだった。


 休憩所で、総員輪になって大量の補給物資を食べ始めた。 アティロムの皆さんも、恐縮しながら召し上がってくれた。


 ユイは、珍しい食料の数々に、目を輝かせながらパクついている。 その姿が、また笑いを誘っていた。


 ……俺は、個人的に『イカ焼き』がツボった。 『地球外殻イカ焼き化作戦』←命名俺……のお陰で、この楽しい一時ひとときを過ごせるのだからね!

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