第8話 上陸

 どこまでも透き通った、雲一つ無い青空。


 今日は、待ちに待った、守屋神社の夏祭りだ。


 俺のアパートでは、青木さんがユイに浴衣を着せている。


 台風も、都合良く日本列島の手前で消えちゃった! ラッキ〜♪


 ……約束の時間には少し早いが、こちらは全員揃っているし、まずお参りもしたいから、ユイの準備が済んだら出発するか!




 ……って、ちょっと待て。 これって、あまりにも不自然じゃ無いか?


 作戦参謀が、俺に『台風を消し去ったら、全ての生命体が死に絶える』ってわざわざ忠告してくれたのに、あの設定は何処いずこへ?


 そもそも、台風が日本の手前で消滅!? するなんてあり得ない。 『消える魔球』じゃあるまいし……荒唐無稽にも程があるぞ!


 夢? 


 ほっぺをつねったら、痛い。



 俺は、アパートの裏手に回り、『司令徽章』で作戦参謀を呼び出した。


 ……現れた3Dの作戦参謀に「今回は、どんな方法を使ったんですか?」……と訊ねた。


「我が軍の工兵部隊が、『暴風雨を伴う移動性熱帯低気圧』の進路にあたる地域の地下に空間を創り、地表を反転させたのだ」


 ……え? ……どゆこと?


 俺の目の前に、模式図が表示された。


 台風の進路にあたる部分が巨大なシャフトつらぬかれ、クルリと裏返った。


 ……『イカ焼き』だ! 超巨大なイカ焼きだあ!


 今、俺たちが見ている太陽は、地球の内部に設置された人工……いや、太陽で、『炭火』のように、俺たちを照らしている! 


 空は、掘られた穴の内部を水色に塗装したものだ。


 ……つまり、俺たちは地球の中心に頭を向けて、『地球の外殻』の内側に立っている……って事か。


「じゃあ、台風が消えたっていう報道は…」


「わたくしが流した『ガセネタ』でございます」……と、情報参謀が横から顔を覗かせ、例のひょうきんな声で言った。 ……『ガセネタ』って、こいつら、変な言葉ばかり覚えるなぁ。


「今回の作戦は、引力の調整に時間がかかり、少々手間取ったぞ。」


 ……いつの間にか、うしろに浴衣姿のユイが立っていた。 ……こいつ、和装まで良く似合う。


「これで、溜飲りゅういんが下がったであろう。 皆が待っておる。 『ナツマツリ』に侵攻インベート!」


『ろ、御意ロジャー……』


 俺たち『混成部隊』4人は、守屋神社に向かった。


 変な話だが、……地面の奥底では今頃、台風が『上陸』している……はずだ。 

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