第6話 狡猾

「ただいま〜」


 俺は、カラ元気を出してアパートに帰った。 ユイに心配をかけたくなかったからだ。


 ……しかし、テレビを観ても、台風のニュースばかりだ。その度に、鷹音ようおんさんの笑顔がまぶたに浮かび、寂しい気持ちになる……。


 せっかくここまで辿たどり着いたのに……と、つい顔を伏せてしまった……。その瞬間、


「あ〜! 辛気臭しんきくさい!」


 しんきくさい…って、 何処どこでそんな言葉覚えたんだ?


「何だよ、何を怒ってんだ?」


「帰って来てから、一言ひとっことも話さんではないか! また何か懸案けんあんであろう! 申せ!」


 ユイが、高速でスリーパーホールドを仕掛けてきた! ぐ、ぐるじい…! わかった、ギブ、ギブ!!




「そうか…その台風が、次の攻撃目標ターゲットか!」

 

 ……と、例によって俺の『司令徽章』に何かをつぶやくと、目の前に、小さな作戦参謀が3Dホログラムで表示された。 


 ……今後は、軍議を凝らさない方針になった為、前哨基地に行く必要が無くなり、3D映像によるオンライン会議で済ませる事になったのだ。



「作戦参謀! 現在、当方面に侵攻中の『暴風雨を伴う移動性熱帯低気圧』を殲滅する戦略を示せ」とユイが言うと…


「御意」

 ……「お待たせした」


 ……相変わらず速すぎる。 突っ込む行間ぎょうかんも無い。


「我が衛鬼兵団えいきへいだんの特殊任務遂行部隊、コードネーム『そよかぜtender breeze』を出撃させれば、この世界の時間単位にして三十秒で殲滅可能です。」


「『そよかぜtender breeze』の作戦遂行準備に如何いかほどの時間が必要か?」


「はっ、およそ、二秒」


 たったの三十二秒で、台風が消滅……する? 呆れる……と言うか、呆気あっけ無さ過ぎて、もう、何も言う気がしない。 『チート』の範疇はんちゅうを超えて、ギャグマンガだ! 


「総司令閣下……」


 ……?


 ……作戦参謀が、俺に何か言いたそうだ……。 

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