第5話 絶望

 俺たちは、その日の為に着々と準備を進めた。


 浴衣ゆかたの準備、経路の確認、現地の視察、撮影スポットの確認と高性能スマホの購入、2次会会場の確保……などなど……。 



 ……実は、そんな俺を嘲笑あざわらうかのごとく、この時、既に恐るべき魔の手が忍び寄っていたのだ。



 作戦決行日の数日前、太平洋上に熱帯低気圧が出現した。 ……そいつは海水温上昇による水蒸気を吸って成長し、巨大な台風へと変貌した!


 気象庁によると、台風の勢力を示す中心気圧は960ヘクトパスカル、中心付近の最大瞬間風速が30メートル以上になるとみられる……という……。


 「たいらさん!」 長瀬が、外回りから戻って来るなり、挨拶もせずに俺を廊下に呼び出した。


 長瀬は小声で「最悪です……。 今、アティロムに行って確認して来たんですが、鷹音ようおんさん、来週から夏休みを兼ねて、家族で一ヶ月くらい、海外旅行に行くらしいんです」


「……って事は、今回の夏祭りが延期になったら……」

 

「……残念ながら……計画は断念するしかない…ですね」


 更に、長瀬が続ける。


「今回は初めてだったので俺も誘いやすかったのですが、これからは、かなり気を付けないと、下心したごころがあると思われて、警戒されちゃうと思うんです……」


「……」


 長瀬が「申し訳ありません! 俺が夏祭りなんて言ったばかりに……」と、頭を下げた。


「何を言ってるんだ! お前は何にも悪くない!! 全部、俺の身勝手なんだから、本当に気にするな!」


 長瀬は頭を上げない……。 俺は思いっ切りの作り笑顔で……


「お祭りが延期になったら、俺たちだけで行って、残念会でもやろうぜ! ……それに、お参りしたら、浴衣の可愛いと知り合いになれるかも知れないし! 俺は本当に大丈夫だよ!」


 ……長瀬は、もう一度頭を下げて、仕事に戻って行った。



 ……今度ばかりは、大自然の猛威が相手だ。 勝ち目が無い……。


 の皇帝クビライ・ハンが擁する大モンゴル帝国軍でさえ、台風には叶わなかったのだ。


 ……やはり、俺の幸せはきていた…と諦めるしかない……。


 ……諦めの良さが……俺の長所……だから……。

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