第7話 消滅

「……クローン!?」俺は、驚きの声を上げた。


左様さようでございます。 諜報の鉄則は、ちりひとつ残さず敵のデータを根刮ねこそぎ奪取すること。 襲撃などしたら軍法会議ものです」と通信参謀。


 続けてユイが……「クローンの良いところは、単一細胞のみでの培養が可能な事だ。 これだけの枚数データ、複写ではかなりの質量になるが、クローンなら、虫でも運び出せるからな」と付け加えた。

 


 ……なるほどね~。 ……それにしても、あれだけの枚数、全ての短冊のクローンを造るとは! しかも、『紙のクローン』って……。


「さあ、検索せい」


 ……え? 目で探すの?


「当たり前だ。 あたし達をかぶるな」


 ……はい。すんません。


 通信参謀が「総司令閣下、本来クローンは有機物から作りますが、今回は無機物……。あまり長い時間は細胞結合を維持できませぬ。 ……お早めに……」と言い残して消えた。



 衛鬼兵団えいきへいだん会議室に、手の空いている兵士達が集められた。


 正面の大型モニターには『鷹音 野華』と『ようおん ひろか』 という文字が表示されている。


「司令官は、貴様だ。 指揮してみよ」…ユイに促され、初めての号令をかける事になった。


「コホン、 え~、み、な↑、の↓足元にぃ~」しまった! 『な』の時、声が裏返っちゃった。 「足元にある『短冊』に、この文字があったら、すぐに報告せよ!」 


「なお、その『タンザク』は、時間が経つと消滅する。総員、迅速に検索せよ」とユイがつけ加えてくれた。


 衛鬼兵えいきへいたちが、モニターと短冊を懸命に見較べている。 俺たちも、必死に探すが、時間だけが過ぎてゆく…。


「閣下ぁ!」兵士の一人が立ち上がった!


 あったか!!


 ……見ると、『野華ひろかさんみたいに、綺麗になれますように』 と書かれていた。 残念! ニアピン賞!



「おい、兄! これは如何いかに!」


 あったか!


 間違いない! 鷹音ようおんさんの署名だ!


 ユイ! でかした!


 ……願いを目にした刹那、手の中で短冊が消滅した。他の短冊も、全て消え去った。


 ……俺はその場に立ち尽くし、一筋の涙をこぼした……。


 ユイが肩を落として近づき「すまん……。間に合わなかったか……。」


 俺は、首を横に振り、今でも目に残っている文字を口にした……。


『すてきな かれしができますように ようおん ひろか』

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