第6話 潜入

『株式会社アティロム』は大手総合企業で、子供達の情操教育にも力を注いでいる。 その為、恒例の七夕まつりは地域の幼稚園や保育園、小学校の生徒に短冊を配り、願い事を書かせているのだ。

 

 ご用聞きの振りをしてアティロムに顔を出すと、職員が総出で短冊を笹の葉に結びつけていた。


 残念な事に、鷹音ようおんさんはお休みだった。


 別の受付のかたにお手伝いを申し出ると、即OKをくれた。


 ……差し入れてくれた冷たい麦茶に目もくれず、人一倍、高速で短冊を結んでいく俺を見て、顔見知りの広報部長が「さすが、ヘイボンさんは非凡ひぼんだね~」と、褒めてくれてるのか何なのか良く判らない声を掛けてきた。 ……俺は苦笑いを返す。


 ……バレないよう作業の手を止めずに、この膨大な枚数の中から鷹音ようおんさんの短冊を見付けようと必死になっている……とは口が裂けても言えない。


 数時間後、作業は終了したが、鷹音ようおんさんの短冊の発見には至らなかった。 ……この枚数の中から、たった一枚を探し出すなんて土台どだい無理な話だったんだ……



 疲労と失意から「ただいま」も言わず、部屋の隅でうなだれた俺を見て、ユイが「また懸案事項か?」と聴いてきた。


 今日の事をひと通り説明すると「……そうか。その『タンザク』とやらを見せてくれんか?」


 帰りがけにアティロムのスタッフさんから『お願いを書いて持ってきて下さいね』と渡された短冊を背広の内ポケットから取り出して、ユイに見せた。


 それを持ったままユイが押入れを開ける。そこは『衛鬼兵団えいきへいだん前哨基地ぜんしょうきち』に繋がる秘密の入口だ。


 ……以前のように、部屋が基地化していると、誰かに見つかる危険があるので、押し入れに隠しておく事にしたのだ


 ユイが『通信参謀』を呼び出した。


 通信参謀は、画像を走査そうさしたり傍受したりするのが仕事だからか、望遠鏡やらレーダーやら、それらしい装置をあちこちに身に着けている。


 ユイが短冊を通信参謀に渡し、「これだが……如何いかがか?」と聴いた。


 通信参謀は短冊にライトを当てたり、液を垂らしたりしていたが、ユイに一礼し「可能に御座います」と言った。


 通信参謀に、アティロムの住所を聴かれたので教えると、通信参謀は、下士官を呼び出し、住所を伝えたのち、「出撃!」と命令した。

 

『出撃』ってまさか……と妙な胸騒ぎを覚えたが、通信参謀も作戦参謀同様、一瞬で戻って来て「お待たせしました」と言って、一礼した。


 ……うん、待って無いぞ。


 通信参謀のうしろには、数人の兵士が、大きな段ボール箱を抱えている。


 ……中には、願い事が書かれた短冊がぎっしり詰まっていた!


 お、お前ら、まさかやっちゃったのかあ!?

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