第8話『永禄十一年』

 ……俺が孤独に打ちひしがれていると……



「貴様、一人で何をしている?」


 ん? 聞き慣れた声がする?


 薄目を開けると……


 ユイの、どデカい顔が目に入った!


「ひえぇ~!!」


 驚いた拍子に尻餅をついた…が、痛みは感じない。床を探ると、草むらのような手触りだ。


 徐々に目が慣れてきたのか、視界がはっきりして来た。


 俺を至近距離で覗き込むユイと、それしに、整然と並んだ人影ひとかげえ始めた。



 ……あとから判明した事だが、『タイム・トンネル』は俺が勝手に思い込んでいただけで、実はドアを開けて一歩踏み出したと同時に、目的の『時点』に到着していたのだ。


 衛鬼兵団えいきへいだん技術参謀によると、次元転移も時間転移も原理は同じで、彼らの技術なら、お散歩気分でタイム・トラベル出来るそうな。 


 ヤケにまぶしかったのは、暗い『衛鬼兵団えいきへいだん前哨基地ぜんしょうきち』から、急激に明るい陽光ひのひかりもとに移動したためだった。


 更に、戦国時代は、大気たいきが澄み切っており、当然、現代と比べると強い日差しが降り注ぐため、余計にまぶしさを感じたのだ。




 ……俺達は、八瀬やせの国、細河ほそがわ兵六ひょうろくの本陣に、無事、到着していた。


 ……いつの間にか、俺は鎧兜よろいかぶとを身に着け、ユイは……


 ……桃太郎さんのような身なりをしている。


 思わず吹き出してしまった俺が、ユイの手にする薙刀なぎなた石突いしづきで、よろいの隙間を素早く正確に射抜かれ、四~五日ズキズキ痛む羽目はめになったのは、言うまでもない。

 ……流石は司令官に昇り詰めただけの事はある。良い突きだったぜぇ。




「閣下~、総司令閣下ぁ~」……聞き慣れた声がした。


「おい、呼んでるぞ」


 ……って、あっ! 俺だった!


「おお、情報参謀ぉ~」と振り向くと、鎧兜よろいかぶといびつに着こなした、ひょろ長い、あの姿が!


 おいおい、随分タイトロープつなわたりな事してるなあ! 下手したら、怪物呼ばわりされて、新兵のゆみ教練きょうれんまとにされ、一巻の終わりだよ!


 ユイが腕を組み、不敵な笑みを浮かべ……


彼奴きゃつ見縊みくびるな…。ああ見えて、彼奴きゃつは名うての交渉人ネゴシエーターだ。 あたし達が到着する前に、細河ほそがわ氏との軍事協定は締結してある。」


 ……と、誇らしげに言った。



 へえ〜! 『人は見かけによらない』って言うけど、衛鬼兵も見かけによらないもんだな〜。


 ……俺は呑気にそんな事を考えていた。

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