第13話 降伏


「情報参謀」


「はい!」 あ、ひょろ長い、あいつだ。 吹き出さないようにしないと……

 

「え~、ここにおられる『たいら 盆人はちひと』氏と、『鷹音ようおん 野華ひろか』氏に関する、あらゆる情報を元に、『コイビト』……すなわち『つがい』にする為の『模擬戦闘シミュレーション』を行いましたところぉ〜」


 情報参謀が合図すると同時に、果てしなくそびえる、俺たちを取り囲む壁一面に、おびただしい数のモニターが表示された。


 良~く見ると、その一つ一つに『ペケ』が表示されている。


「これは、ほんの一部ですが、ご覧のごとく、全て敗北。正直、これほどまでに困難な戦闘は、我が衛鬼兵団の戦史上、るいを見まセン。 ……よって、わたくしは『降伏』を具申致しまス!」


 ガ〜ン……こ、これで一部ぅ?


 その上……『 降 伏 』!?


 参謀長が、「総司令、如何いかがでしょう? 今回提示された議案は、却下……という事でよろしいですかな?」 といてきた。


 ……前にも書いたが、鷹音ようおんさんは、俺とは異世界の人間なのはわかっている。 わかっちゃいるが……


 有史以来、不敗を誇る無敵の軍隊でさえ降服するほどダメダメだったとは……。


 やっぱ落ち込む……。


 しかし俺の長所は、あきらめの良さ……だ。


『所詮、叶わぬ恋だ』……と判っていたんだし、下手な希望を持った俺が馬鹿だった。


 それに、何の努力もしないで、衛鬼兵団におんぶに抱っこで鷹音ようおんさんと恋人になれたとしても『本当にこれで良いのか?』との疑問を永遠に払拭出来ないと思う。


 魔法が使えるのはマンガやおとぎ話の世界だけだ。 現実には魔法なんて存在しないし、そんな夢みたいな事を追い掛けていても時間のムダだ。


 鷹音ようおんさんは、この上ない素敵な女性ひとだ。 本当に彼女を幸せに出来る男と結ばれるべきだし、それが彼女にとって一番の幸せだろう。


 


 俺は、半べそをきながら、参謀の皆さんに「この度は、申し訳ありませんでした。」と謝り、ユイに向って「俺の部屋に戻してくれ」と頼んだ。


 ユイは頬を紅潮こうちょうさせて


「待て! 確かに数字のうえでは、我々の敗北は確定的かも知れん。 だが、いどみもせずに降伏するとはなんたる為体ていたらく! 恥を知れ!」


 ……と参謀たちを怒鳴りつけた!


 いや、そこまで怒らなくても…。

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