第12話 大綱《たいこう》

「第2公園で、風船を離しちゃった子の、風船を取って上げたい……んですが……」


 総参謀長が一礼いちれいし、他の参謀たちを見回す。


 参謀たちは姿すがたかたちや大きさが、てんでんばらばらで、各々おのおののサイズに合わせた椅子に腰掛けている。


「情報参謀」


 ……総参謀長が指名すると、俺たちと同じくらいの背丈だが、明らかに異なる外見の、ひょろ長いやつ一礼いちれいし、台座ごと、正面に移動した。


 すると、壁の一部が左右に割れ、スクリーンらしき物が出現した。 そこには、泣いている子供と、飛んで行った風船が写っている。


「え〜、今次こんじ戦に関しまして〜、検討致しました所ぉ〜」 ……見た目通りのコミカルな声に、思わず笑いそうになったが、何とかこらえた。


「この浮揚性ふようせい玩具がんぐはぁ〜、第18族元素の中でもぉ〜、最も軽い気体を充填し〜」


『フヨウセイガング』!? ……ああ『ふうせん』の事か。 まどろっこしいなあ……。


 情報参謀は夢中で、風船が『浮揚』する原理を説明しているが、その説明を聴いていたら、大学時代の化学の授業を思い出し、条件反射で、ついウトウトしてしまった。



「総司令閣下」


「……」


「総・司・令・閣・下!」


 ……。 やべっ、寝ちゃってた。 ……総司令って…… あっ! 俺か!


「は、はいっ、何でしょ?」


今次こんじ戦の大綱たいこうが定まりました。 作戦参謀より、説明致します。 ……作戦参謀!」


「はっ」 


 ……今度は、打って変わって、いかにも無骨ぶこつそうな、キズだらけの参謀が立ち上がり、俺に一礼してスクリーンに向かった。


先程さきほどの情報参謀の分析から、次に示す方法で、浮揚性玩具を占有者の手元に帰還させようかと思う」


 スクリーンに、模式図が表示された。


ず、狙撃により、当玩具にベントべんを打ち込み、浮揚性ガスを排出させて高度1150ひとひとごまるまで降下させ、弁を閉じる」


 ふむふむ……ヘリウムガスが抜けて、風船が高度を下げた。


いで、送風機により、目標まで誘導し、占有者が玩具の持ち手を掌握しょうあくさせる」


 おっ、風船が移動して、子供が持ち手を握ったっぽい! ……でも、風船の高度は顔と同じ位の高さだ。 飛んで行く心配は無いかも知れないが、こんな風船、面白くも何ともない。


「……そして再び狙撃により、当玩具の給気口近傍きんぼうに超小型バラストタンクを打ち込む」


 バ! バラストタンク〜!? 昔、潜水艦のマンガかアニメで観たような記憶が……。


「最終工程としてバラストタンクをブローし、浮力を与え、任務を終える。 ……このような作戦で、宜しいか?」


『宜しいか?』と言われましても…… 


 こちとら、風船を取って貰いたいだけで、風船を潜水艦に改造してくれ……と頼んだ覚えはない!


 ……とは言え、逆らおうものなら、こいつらに食べられちゃうんじゃない!? ……みたいな怖さが先に立って、余計な発言が出来なかった。

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