第3話 昏倒

いってぇ!」 ……体中……特に腕や脚が痛くて、思わず座り込んだ。


 腕を見ると、無数のあざが出来ている。


 更に、息が上がって苦しい。 フルマラソンを全力で走ったくらいの苦しさだ。 ……まあ、走った事は無いけどね。


「30,000打撃中、29,838防御、162回避……『ヒラシャイン』の反応としては上出来だ」と、女の子は冷静に言った。


 なんと、俺はこの子に殴られ、それを自覚も無く防御、更に回避もしていたらしい。


 ……そう言われてみれば、特にてのひらが真っ赤で、少しだけ血が滲んでいる。


 どう考えてもおかしい。 ……このバッジを拾った瞬間から、何かとんでもない事に巻き込まれてしまったようだ。


 俺は、仁王立ちで俺を見下みおろしている女の子に


「なんだちみは? これは何なのか教えてくれ……」と、バッジを示しながら頼んだ。


 女の子は何かを言いかけたが、無言で……


 なんと! いきなり!!


 俺に……抱 き 付 い た !?


 な! なんだ? なんなんだ!? 


 これ……ドッキリ?


 夕暮れ時……しかも、人通りが然程さほど多くない道……とは言え、道の真ん中で二十代後半のオヤジと女子中高生が密着している姿は、嫌でも人目を引く。


『これは濡れ衣だ! 俺は無実だ〜!』……と叫びたい気分だった。


 ……唯一の救いは、抱きついて来た事だ。 


 ……急いで女の子を引き離すと、その子はばったりと道に倒れ込んでしまった。


 そう……この子は俺に抱きついたのではない。


 気を失って倒れちゃったんだ〜!


「おい! きみ! しっかりしろ! 今救急車を呼ぶから……」と言い終わる前に……


 女の子のお腹から『グウゥ〜〜ッ』という音がした。


 ……この子……腹が減ってるだけぇ〜!?


 安心した俺は「なんだ……腹が減ってるのか?」と話しかけた。


 女の子は弱々しい声で


「わ、わからない。この肉体に細胞配列変換してぐに、心窩部に違和感を感じたが、惑星が3回自転した頃から目眩めまいしょうじていた。 こんな経験は初めてだ」


 と言った。 ……可愛らしい声だが、ヤケに小難こむずかしい言葉を使う。


『惑星が3回自転』? 小学校で習った記憶が……。


 ……!


「3日も食べて無いって事か!? そりゃ倒れるよ! すぐに何か食べないと!」


 気付くと、俺たちの周りには、野次馬が集まっている。


 俺は自分の痛みも忘れ、愛想笑いを浮かべ……


「スミマセン、お騒がせして……。 腹が減ってちからが出ないよう……です」と、バ○キンマンに水をかけられたアンパ○マンみたいな台詞せりふを残し、女の子を背負って、その場を去った。

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