『やさしい気持ち:月がきれい ED』 告白なんて、日本の悪しき習慣ですわ
唐突に切り出されて、はやせは戸惑ってしまう。
「ひょっとして、いわゆる『もう付き合っています』ってやつかな?」
「リンならありえますわ」
唱子先輩は、リンに尋ねてみる。
「うん。もう付き合っているものだと思っていた」
「え、そういうものなの?」
自分でも、驚いてしまった。
リンははやせをちゃんと恋愛対象と見ていた。
「だってオレ、告白とかまったく」
「はあ……告白なんて、日本の悪しき習慣ですわ」
ため息をつきながら、唱子先輩ははやせに告げる。
「いいことを教えて差し上げましょう。海外では告白なんてしません」
「え!?」
「もっと言えば、恋愛の第一歩に告白が必要と考えている国なんて、アジア圏くらいですわ」
そうなのか!
「海外ドラマで告白タイムとかやりますか? 『デートしましょ』などお誘いくらいは言いますが、『好きです』なんていうのは、まれですわ」
海外では、実際に交際が始まった辺りで互いの関係を確認するために告白するらしい。
「例えば、どういうタイミングで?」
「性交渉の後とかですわね」
外国出身のリンとのギャップが凄まじい。
そこまで海外と日本とは文化が違うのか。
過剰なスキンシップは、リンにとって自然極まりない行為だったのだろう。
「ごめん。ちゃんとわかってあげてなかったな。悪かった」
「じゃあ、二人の関係って、恋人でOK?」
はやせはうなずいた。
「うん。オレたちは恋人だよ」
「よかった。唱子、わたしカレシできた」
リンがバンザイする。
「よかったですわ。どうもしっくりこない理由が、ただの行き違いだったのですから」
はやせも、早い段階で気づけてよかった。
「じゃあリン、日を改めてデートでもしようか?」
「する! はやせと一緒に遊ぶ!」
心底楽しそうに、リンは喜んだ。
「ですが、まずは目の前の課題に目を向けましょうか」
山のような出題範囲をこなすため、はやせたちは現実に戻る。
「わあ、もう月が出てるよ。夜だ」
優歌先輩が窓を見ながら言う。
「『月がきれい』の月って、あんな感じなのでしょうね。『やさしい気持ち』が聴きたくなりますわ」
みんなして月に見とれていると、唱子先輩がノートを閉じる。
「もう遅いですし、これでお開きにしましょう。また次回」
勉強会を終えて、リンと二人で家へ帰ることになった。
もっと追い込みたい優歌先輩は、この家に泊まるという。
「大きい月!」
リンが、空を見上げる。
「知ってるか? 『月がきれい』って、告白の意味もあったんだってよ」
「わああ、はやせの方がきれい」
「やめい」
二人して、ふざけ合う。
リンの顔を見ながら、本当に『月がきれい』だと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます