『はじめてのチュウ:キテレツ大百科 OP』 優歌っち、おまたせ。
「おーっ、しらゆきひめえ」
ガラスの棺で眠っている白雪姫に扮したはやせを、王子役のリンがお姫様抱っこする。
会場がワッと湧く。
「おー、ひめよー。おいたわしやー」
これは完全なアドリブだ。他の役者や裏方たちも戸惑う。
「リンお前、こんなの台本にない!」
小声で、はやせがリンに打ち合わせと違うアドリブを指摘した。
「でも、ちゃんと起こさないとお客に見えない」
そう。最前列には互いの家族、先輩たち、長戸高校の御一行がいる。
はやせの晴れ姿を見せようと、リンなりに気を使ったのだ。
「めをさませぇ」
リンの唇が、はやせの顔に近づいてきた。
会場がさらにヒートアップしていく。
ギリギリのところで唇は止まっているが、リンのボブカットのおかげで接吻をしているように見えているだろう。
「はっ、わたしはなにをー」
お姫様抱っこから自力で脱出し、姫役のはやせがリン王子と抱き合って終了した。
幕が下りると、裏方のクラスメイトたちがはやせたちを讃えてくれる。
「聞けよ。会場拍手喝采だぜ!」
サトルが、会場を指差す。
「リンちゃんがはやせくんを抱き上げたのがよかったのよ!」
よかった。リンのアドリブが受け入れられたようで。
「はやせは軽かった」
「待て待て。うわあ!」
リンは再びはやせを抱き上げて、またも会場へ。
スポットライトを当てられ、はやせはさらに目立ってしまった。
先輩たちと合流し、部室へ。
リンとともに、焼きそばやらフランクフルトやらをごちそうしてもらう。
「きっつかったぁ」
ペットボトルの水をもらいながら、はやせは緊張をほぐした。
男子の制服に、もはや懐かしさすら感じる。
「終幕の、『はじめてのチュウ』の熱唱もよかったですわ」
「あれも、リンのリクエストで決まったんですよ」
高校一年だと、特に文化祭でやりたいことはない。
どちらかというと、遊びたい方が勝つ。
リンのやりたいようにやらせようと、全員が考えていたそうだ。
「英語版で覚えた」
「随分と前に、英語版が出たんですよね」
山崎まさよしや、最近だと松本まりかがカバーしている。
「いいクラスメイトに囲まれました」
「よかった。次はわたしが、みんなのためにがんばる」
次は、マイナーアニソン研の出し物だ。
もうすぐ、長戸校対抗イントロクイズが始まる。
「今年の文化祭も、盛り上がりそうですわね」
「だな!」
我々はもうひとり、ゲストを呼んだ。
「優歌っち、おまたせ。ライブ終わったよ!」
「待ってたよ亜美ちゃん!」
軽音部の亜美先輩である。
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