マイナーアニソン、秋に響く

『Rain:言の葉の庭 主題歌』 彼女持ちのお前と違って

「うわーん。夏休みが終わってしまったー」


 クラスメイトの宮間みやま サトルが、頭を抱えていた。

 九月までずっと、部活動まみれだったらしい。

 一週間に一度は、どこかのイベントに参加というデスマーチだった。


 はやせは心底「入部しなくてよかった」と、胸をなでおろす。

 人混みが好きではないため、大多数のイベントは苦手なのだ。


「今日こそ、彼女をゲットする予定だったのにー」

「その分、イベント盛りだくさんでよかったじゃねえか」


 打ち上げがたくさんあったと聞いて、はやせはうらやましがる。


「彼女持ちのお前と違って、こっちはほぼ仕事だからな。ビジネスの付き合いしかできなかった。話も、オタクネタばっか」

「オ、オレはそんなんじゃ」

「まあ、お前は幸せそうだからいいんだが」


 終始、サトルにはずっと誤解されていた。

 なんとか、自分とリンの関係を説明したいのだが。


「アニ研って、そんなに本格的な部活だったか?」


 話を聞いた限り、去年は完全に趣味サークルだったように思えた。


「今の部長って、やったら商売っ気が強いんだよ。完全にオタビジネスサークルと化してる。どれだけ他の生徒と衝突したか」

「お前はどうなんだ?」

「ついていくのがやっと。スキルが身につけばいいかな? 特にやりたいこともないし。ただ、やめてるやつらも多いんだ」


 趣味で入ってきたのに、実用性を要求されるので嫌気が差したメンバーが多数出てきたらしい。


「それで一部の部員が、夏休みで『学生ごときに商業ベースの高いクオリティなんか求めてんじゃねえ』って爆発。部員は離散、終盤のイベントも流れましたとさ。『そんなにハイクオリティの作品が作りたいなら、ネットで人を集めろ』ってな、大多数が辞めた」


 さすがの部長も、学生相手に熱量や技術は求めてはいけないと、ようやくわかったそうだ。


「話し合いの結果で、『文化祭は、のんびりやろう』って話になったんだ」


 文化祭要望書を、サトルがクラス委員から受け取る。


「もう、文化祭の時期なんだな」

「要望は模擬店ばっかだな。屋台とか、喫茶店とか」

「学生の文化祭なんて、そんなもんだろ」


 二人して、リンの方を向く。


 窓に当たる雨を、リンはずっと見つめていた。


 思わず、「絵になるな」と思ってしまう。

『言の葉の庭』の主題歌、『Rain』が脳内でかかる。


「クロフォードさんに聞いてこいよ。黄昏てんぞ」

「だから違うって」

「どっちでもいいんだよ。行け」


 ポンとサトルに背中を押されて、リンの元へ。


「文化祭、何にしたいか、ってよ」

「お芝居」

「ほお、違う意見が出たぞ」



 翌日、大多数が喫茶店を選ぶ中、なぜかリンの意見が採用された。

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