『桃色片想い:推しが武道館いってくれたら死ぬ ED』 あれを、仲良くなっていると言えるんだろうか?

「例のアニソン研究会に入部しただと?」

「ああ」


 サトルに、マイナーアニソン部のことを話す。小学校からの腐れ縁で、この高校に入ってからもクラスメイトだ。


 盛大に、サトルが「あー」と大げさなため息をつく。


「なんだよサトル? 問題あるのか?」

「ある! うらやましい!」


 サトルは涙目になっていた。


「ちいい。こんなことなら、アニ研に入らなかったらよかったー」

「あそこだって、女子ばっかじゃん」

「男子ばっかりなんだよ、今年は!」


 なんでも女子は、去年の部長目当ての生徒ばかりだったらしい。その部長は女子にして男子より男前で、人気が高かったそうだ。

 部長がやめて以降、男子だけの部になってしまっているとか。


「でも、女子とふれあいたいから部活に入ったわけじゃないだろ? 交流なら、イベントとか盛り沢山じゃん。うちにはそういうのないから」


 歌をテーマにした部活ではあるが、特に大会などもない。他校とのふれあいなども、望めないだろう。


「とかいってー、お前。同じクラスのクロフォードさんとさっそく仲良くなってるじゃんか!」

「あれを、仲良くなっていると言えるんだろうか?」


 単純に、リンを部室まで連れて行くだけの簡単な仕事なのだが。


「仲良しじゃん! もはや同伴じゃん!」

「キャバクラかっ!」


 そんな歳ではない。


「で、どうなんだ、その研究会って」

「普通。アニソンの話をして帰るだけだ」

「それでも、女子と会話できるんだろ? いいなぁ」

「うらやましがられても、肩身が狭いぞ。男子はオレだけだし」


 男子は自分だけ。いつ排除されるかとビクビクものなのだ。


「特に、先輩たちは二人だけの世界を作ろうとするから、入って行きづらい」

「その分、クロフォードさんと放す機会があるじゃないか!」

「しゃーなしだ」


 リンは、あまりアニソンに詳しくない。

 結果的に、自分がアニソンを教える側になるのだが、この関係性でいいのだろうかと疑問も残る。




 部活にて、リンにもそれとなく聞いてみた。


「というわけで。あの、もっと、クロフォードにも楽しんでもらいたいんだ」

「リンでいい。しょーこにもそう言われているので」


 毛恥ずかしいが、リンがいいならそれも。


「じゃあいっそのことさ、みんな下の名前で呼び合おうか? ここはリンちゃんのペースに合わせよう」

「賛成ですわ。はやせさん。よろしくですわ」


 年上の美人に下の名前で呼ばれて、はやせもドキリとなる。


「は、はい。よろしく」


 思わず、挙動不審になる。


「えっとー。リ、リン」

「こんにちは、はやせ」


 やばい! さっきの衝撃がかわいく思えるほど、胸が高鳴った。


 動悸が激しくなってしまい、返事に困る。 


「まあ、はやせさんはリンに『桃色片想い』ですの?」

「ああそれ、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』のEDですね」


 唱子先輩とは、普通に話せるのに。

 同じ趣味である上に、女性を感じさせないところがとっつきやすいのだろう。

 同性の優歌先輩一筋なところとか。


「そんな、変な意味はないんですが。とにかく、リンが一人ぼっちになってしまいそうで」

「だったら、はやせくんがリンちゃんにアニソンを教えてあげて」

「オレが、ですか」


 もっと適任者はいるだろう。たとえば、唱子先輩など。


「深すぎてついていけない」


 リンから物言いがついた。


「というわけで、リンの教育係をよろしくお願いしますね、はやせさん」

「は、はい!」

「リンも、懐いてらっしゃるようですので」

「は、はいい!?」

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