『ミラクル・ガイ:そらのおとしもの ED』 発掘する楽しみがありますの

 男子学生の詩道しどう はやせは、あまり歓迎されてないムードを察知した。


「あ、すいません。場違いだったでしょうか?」

「いえいえ、こちらこそすみませんでしたわ。どうぞどうぞ」


 高山たかやま 唱子しょうこ先輩は、入室を促してくれているが、苦笑いをうかべている。


 女子の花園に男子が踏み込むというのは、さすがにまずかったかもしれない。いくら純粋にアニソンが好きとはいえ。


 そう考えていたとき、後ろになにか硬いものが当たった。


「おふっ」

「ああ、ごめんなさい。しょーこ、会いに来た」


 クラスメイトのリン・クロフォードが、はやせの脇から生えてきたかのように頭を出す。

 どうやらぶつかったのは、リンの頭だったらしい。


「はやせは、入らないの?」


 リンが、はやせの方へ顔を向ける。リンが、ずっとはやせの背中を押してくる。


「ん? ああ。よろしいでしょうか?」

「はい。どうぞ」


 了解を得て、はやせは入室した。


「お茶をどうぞー」


 大島おおしま 優歌ゆうか先輩が、熱い緑茶とせんべいをはやせたちに差し出す。


「ごめんねー。唱子さんに悪気はないの。人見知りなだけで」


 はやせたちが部室に入るかどうか問答する以前から、大島先輩はお茶の用意をしてくれていた。


「知ってる。よろしく優歌せんぱい」


 手を上げながら、リンがあいさつをする。


「よろしく、リンちゃん」


 大島先輩も席につく。


「もう、見学者相手にオタつかない。男子ってだけじゃん」

「ですわね、優歌さん。ごめんなさいね、ご気分を害されたでしょ?」


 手を合わせながら、高山先輩が詫びてきた。


「いえ。とんでもない」

「それはどうも。詩道さんは、リンのお知り合いでしたのね?」


 ようやく、高山先輩がはやせへの警戒心を解いてくれる。


「クラスメイトです。リンはさっき、高山先輩を呼び捨てになさっていましたが」

「ウチで雇っているメイドさんの、姪なのですわ。半分日本人ですの」


 故郷が物騒な地域だったので、結婚を気に日本に移住したという。その直後、リンが生まれた。なので、リンは英語を話せないらしい。親は英語を話せるのだが、英語だと話が通じないそうだ。高校がメイドさんの家から近いという理由で、守台華しゅだいか町に越してきた。


「アニソンが好き?」

「はい。特に、『アニソンとしてカバーされた一般曲』とか『一般層にカバーされたアニソン』とかが好きです」

「擬態アニソンですわね。わたくしも好きですわ。お気に入りはございます?」

「ミラクル・ガイです」

「まあ、『そらのおとしもの』ですわね! わたくしなら、あのED集では『ソルジャー・イン・ザ・スペース』がオススメですわね!」

「わかります。誰が知ってんだこんな曲ってのもありますよね! 『戦士の休息』とかも、そらおとで知りました」

「そうですわね。発掘する楽しみがありますの」


 共通の話題ができて、はやせはホッとする。ようやく、この部に溶け込めそうだ。


「おっと、すいませんしゃべりすぎました」


 高山先輩と盛り上がりすぎてしまい、大島先輩をほったらかしてしまった。


「いいっていいって。むしろ、ホッとしてる。やっとわたし以外で唱子さんについていける人が現れたなって」


 寛大に語る大島先輩からは、苦労の色が見える。


「ところでさ、リンちゃんはどう?」


 大島先輩の質問に、リンは首を振った。


「実は、あまり知らない」


 リンの住んでいた地域は、アニメがほとんど入らない地方だったらしい。

 一応、ネット配信などで追いかけていたが、そこまで詳しくはないという。


「だから、教えてほしい」

「もちろんですわ。なんでも聞いてくださいまし」

「いい。しょーこはマニアック過ぎる」


 大げさに、高山先輩がうなだれる。


 リンは羨望の眼差しを、はやせに向けてきた。


「よろしく、はやせ」


 はやせの手を、リンが繋いできた。


「これはもう、入部確定だね。本人次第だけれど」

「いいんですか?」


 大島先輩と高山先輩が、うなずく。


「もちろんですわ。おふたりとも歓迎いたします」

「では、よろしくおねがいします!」


 こうして、はやせとリンは【マイナーアニソン 友の会】に入部した。

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