第36話 魔術塾

 その他にも色々見て回った。


 自分の身を自分で守れる俺にはあまりピンとくる物はなかったが、ドネートに持たせたら役立ちそうな物は結構あった。


 身代わり鎧ライフジャケットもその一つで、こいつは魔晶石を装填する変った鎧だ。見た目はただのプロテクターだが、攻撃に反応して防御魔術を展開する。一回につき魔晶石一個で、値段によって装填できる石の数や防御性能が変わって来る。


 命に係わる物なので出来るだけ良い物を買ってやりたいが、上を見るとキリがない。装填数二個でそこそこの防御性能の物が三ジェムだったので欲しい物リストに加える。


 ドネートはもっと安いのでいいと言っていたが、俺と違って有限の命だ。ドネートが死ぬ事があるとすればまず間違いなく俺のヘマが原因である。俺の心の平穏の為にもここは予算を大目に割いておきたい。


 装備を一通り見終えるとかねてから興味のあった魔薬屋を覗いてみる事にした。いかにも魔女の店という怪しげな雰囲気の店だが、乾燥させたカラフルな魔草の入ったガラス容器がずらりと棚に並んだ様子はどことなく駄菓子屋めいて見える。


 こちらにもドネートに持たせたら役立ちそうな薬が色々あった。ぶつけると爆発したり燃えたりするポーション、サイリウムみたいな使い方をする月光瓶、虫よけや魔物避け、身体強化薬にお馴染みの回復薬――飲み薬は稀で軟膏タイプが多い。中には性別が入れ替わる薬なんて物まであり、なんたら二分の一世代である俺は内心めっちゃ気になった。


 ポーションの予算は難しい所だ。あれば便利だがなくてもまぁといった物が多い。ポーション自体重くてかさばるので、収納具次第といった所だろう。回復薬と魔物避け辺りは必須な気がするので、雑に一ジェムをポーション代として目標金額に足しておく。


 異世界ウィンドウショッピング――なにも買ってないが――は楽しい。ドネートに使えそうな道具が色々見つかってお互いにルンルン気分だ。ついつい財布の紐がゆるんでしまい、ゴロツキ亭なら半額で食べれるような軽食をあちこちで買い食いしてしまう。


 まぁ、借金は返したしそのくらいの金はある。今日くらいはちょっと贅沢をしても許されるだろう。


「あとは使える魔術を増やしたいな」


 紫色のキュウリを甘酸っぱくしたようなフルーツを凍らせた異世界デザートを齧りながら市街をぶらつく。俺の視線の先には以前ドネートが言っていた魔術塾があった。


 風を操る術を教える塾らしく、看板にはサーフボードで空を飛ぶ老人の絵が描いてある。入会費三ジェム、月謝は授業内容によって変るが最低二ジェムからだ。


「興味ある?」


 舌が紫色になっていると教えてやったら店のガラス扉に舌を出して――中の客が怪訝な顔をしている――確認していたドネートが振り向いて言った。


「詐欺なんだろ?」


「かもしれないって話。凄い加護があるんだし、リュージだったら上手くいくんじゃない?」


「一番安いコースでも入会費込みで五ジェムだぜ。高すぎだろ」


 一番安いコースは週一回一時間の授業だ。そんなんで魔術が身に着くとは思えない。


「さっきからあたしの買い物ばっかりじゃん。少しはリュージの為に使いなよ」


 ちょっと不貞腐れた感じでドネートが言う。気持ちは分かるが自分の事となると財布の紐がきつくなるタイプの俺である。


「それなら新しい剣を買った方が堅実だ」


 正直興味はあるが、失敗した時の事を考えると尻込みしてしまう。先行投資と言っても今の俺達に五ジェムは大金だ。


「……我慢しないでよ。そんなの、全然嬉しくない」


 涙を滲ませたわけじゃないが、俺には泣き出しそうな顔に見えた。俺がドネートの立場なら自己嫌悪でゲロを吐いている。優しさだって過ぎれば毒になって人を傷つけるのだ。


「気にはなるさ。三層の魔物には剣が効かない奴もいるって話だし。この辺でなにか使える魔術を身につけて起きたいとは思う」


「だったら――」


「我慢してるわけじゃない。どうせ大金を払うならちゃんとした所に通いたいだろ? 魔術塾は評判とか色々調べてからでいい」


 虚空に向けて俺は言う。やましい気持ちがあると俺は人の目を見て話せない。多分、ドネートもその癖に気づいている。全くの嘘ってわけじゃないが、理由をつけて先延ばしにしようとしているのは事実だ。


 なんとなく気まずくなり、お互いに黙り込んで歩く。どこに向かっているのかは分からない。お互いに腹の内を探るような気まずい時間が続く。


「ねぇリュージ! あれ見て!」


 急にドネートが明るい声を出して俺はホッとする。喧嘩していたわけじゃないが、仲直りをするチャンスを俺は伺っていた。


「コスプレリフレ、魅惑の経絡マッサージ?」

「そっちじゃなくて!」


 だよな。てかなんだよこの看板。秋葉に迷い込んだのかと思ったわ!

 改めてドネートの指先を確認する。


「ネルシュバーグ魔術塾……開店記念無料体験キャンペーン実施中!?」


 びっくりしてドネートの顔を見る。

 気の利く異世界ギャルは嬉しそうに頷いた。


「ね、折角だから試してみようよ!」


 断る理由はない。一人で魔術の授業を受けるのは不安だったが、ドネートが一緒なら心強い。


 頷くと、俺達は赤い神殿風の建物に駆けこんだ。



――――――――欲しい物リスト―――――――

袋タイプの収納具 一番小さいの二個、又はもう少し大きいのを一つ

六ジェム

                               


魔銃 レナード・ファング ホルスターと魔弾丸色々       

二ジェム

                              

なんかいい感じの剣

三十オーレ ←ダメ! もっと良いの買って!

……一ジェムに変更


身代わり鎧 アルミナ・トータス2と装填用魔晶石二セット

三ジェム ←もっと安いのでいいよ! ←却下。これは譲れない。


便利そうなポーション 回復薬、魔物避け、他に必要そうな物があれば。

一ジェム



合計十四ジェム

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