第30話 バンベラボボラ
なーんて都合の良い話があると思ったか?
バーカ。
全部俺の妄想だよ。
宇宙人のバラエティ番組で異世界転移とかあるわけねぇだろ!
現実を見ろよクソニート!
……そんな夢を見て俺は目を覚ます。
……あれは本当に夢だったのか?
あれとはどっちだ?
俺はまだ目を閉じている。
目を開いたら今度こそ全てが夢のように消えてしまうような気がして怖い。
「……ん、ん、リュージ……」
耳元の甘い寝言が俺の不安を溶かした。ほっとして泣きそうになる。
どうして? この世界は俺にとって本当の世界じゃないのに。それどころか、今の俺は宇宙人によって魔改造された別人のような存在なのに。
……それでもいい。
もう、一人ぼっちの部屋には戻れない。
俺は世界と関わる事を思い出し、人と関わる喜びを思い出してしまった。
こんな俺を見て、宇宙人はゲラゲラと腹を抱えて笑っているのだろう。
三五年間積み上げてきた自分をあっさりと捨て去って、自分達の用意した都合の良い役割に飛び付いた俺を。
……悔しくないと言えばウソになる。
……深く考えるのはよそう。
……それこそ奴らの思うつぼだ。
……どの道元の世界には変えれない。
……俺は、この世界で生きていく他ないんだ。
……
…………
………………ぃや、あの、ドネートさん?
身体のあちこちでツッコミ待ちをしている違和感に俺はシリアスな思考をやめる。
お互いの寝相の悪さがマッチングした結果なんだろうが、何故か俺は右腕でドネートを腕枕し、ドネートはそんな俺に抱きつくようにして眠っている。
小悪魔と天使のハーフみたいな寝顔がすぐ横にあり、その下には大きな胸がある。服はほとんどはだけており、大きく開いた胸元は中が丸見えになっている。すべやかな生足は支柱に巻き付く朝顔みたいに俺の足に絡みついている。
百歩譲ってそれはいい。こんなゼロ距離を超えて密着状態で寝ていればそういう事も起こるだろう。仕方ない。三五歳童貞クソニートおじさんとしても嬉し恥ずかしラッキースケベで健全にドキドキ出来るラインだ。
けどさぁ、俺のおにんにんをがっちり握ってるのはどういうことだ? おかしいだろ!? そんな事あるか普通!?
ドネートの右手は下からぎゅっと絶妙な力加減でバットとボールを掴んでいた。そんで俺のバットは金属バットになっている――いや、木製バットだって硬いんだけどさ。
待って視聴者! これは朝勃ちと言って人間の若いオスにはコントロール出来ない生理現象なんだって! ――仮に普通の勃起だとしてもコントロール出来ない事には変わりないが。
もういきなりこんな状態からスタートするとムラムラとかそういうのを通り越してスリルショックサスペンス&ホラーだ。
こんな状態である事が知られたらお互いにくっそ気まずい。ドネートだって「え? なんであたし寝てる間にちんちん掴んでんの!? しかもバッキバキだし!? 死にたい!」ってなるに決まってるし、「てか、あたしに握られてバッキバキになってたわけ?」みたいな考察をされるとおじさんも辛い。
やる事は一つ、どうにかドネートを起こさないように俺のドラゴンボール――竜二の玉だけに――から手をどかして貰う事だ!
右手はドネートの枕になっているから使えない。ついでに言うと痺れて感覚もない――ここでテレビを見ている宇宙人どもに豆知識を一つ。この現象は
俺はフー! と息を吐いて精神を集中する。船外作業を行う宇宙飛行士のような心地になると、慎重な手付きで左アームをドラゴンスティックへと運んでいく。
「……ん、ん、もう、だめだってばぁ」
ドネートが甘い声を出して身動ぎをする。どんな夢を見ているのか、右手がくにくにと揉むように動いた。
「……っ――」
中一に目覚めて昨日まで散々俺にシゴかれてきた相棒である。そんな素人の寝ぼけた愛撫なんかで感じる程柔じゃないかと言えばそんな事はマジで全然なく、俺は初めてそれに触れた時のような衝撃を受けてガクガクのビリビリになりそうになるのを歯を食いしばって必死に耐える。
「……駄目だってばぁ……バンベラボボラを摘む時は、こうやってそっと摘まないと……」
だから、バンベラボボラってなんなんだよ!? 的な俺の心の叫びを無視して、ドネートの右手は俺の股座のバンベラボボラを撫で上げる。
やめろ、やめてくれ! このままじゃ俺のバンベラボボラが大爆発して全宇宙のお茶の間が気まずくなっちまう!
ていうかそんな事になったらお互いに気まずいだろ!
あぁ、どうする!? そうなる前にいっそ起こすか!? この状態も大概だが、手遅れになるよりはマシだ! そう思うんだがやはり恥ずかしい!
大体なんて声かけりゃいいんだよ! 例えすら出てこねぇよ! そうこうしている間にも俺の我慢は限界に近付いている。ていうか、我慢できるものじゃないから!
ちょっとマジやめて!
お客様、困ります!
お客様~~~~~!
……ぁっ。
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