第22話 一オーレ=百ストーン

「六千ストーン!?」


 えーっと、カラスの爪が六十ストーンのモーロックの飯が三十五ストーンでそれが五百円から千円の間だと仮定して……ってややこしいわ! 視聴者勝手に計算してくれ!

 ようは大カラス百匹分って事だろ!?


「本当は六十オーレだけど、一オーレは百ストーンだから……」


 なにその異世界単位。ドルとセントみたいな感じ? 面倒だから一つの単位で統一してくんね!? てかなんでストーンの上がオーレなんだよ。オーレってなんだよ!?


 みたいな事を考え出すと脱線するので一旦忘れる。


 重要なのは借金が六千ストーンあってカラスの爪が六十ストーンで売れて一層では一時間に大体五匹程度しか狩れないという事だ。


「……それってさ、やっぱ利息とかあるのか?」

「そりゃまぁ、ヤクザだから」


 露骨に目を逸らしてドネートは言う。


「いくらなんだ」

「……まぁ、ほどほどに」


 目だけじゃなく、顔まで逸れる。


「い、く、ら、な、ん、だ」

「……一日一割」

「冗談だろ!?」


 六千ストーンの一割って六百ストーン? 六十じゃないよな? 六百だよな?

 オーマイガー。眩暈がする。


「なんでそんな所から借りたんだよ!」

「仕方ないじゃん! あたしみたいな無職の加護なしに無担保で金を貸してくれる相手なんてそんなのしかいないんだよ!」

「そうかもしんないけどさぁ……」


 いや本当、その通りではあるんだろうけど。引きニートの俺が現実世界でまとまった金を借りようと思ったら闇金的なのを頼るしかないみたいな感じなんだろう。借金とかした事ないから分からんけど。


「つっても剣と服だけだろ? そんなにかかるものなのか?」


 俺の言葉にドネートが呆れる。


「だけってさ……そんな剣でも結構高かったんだよ! いやまぁ、流石にその剣はちょっとボラれたかなって思うけど……。あとはまぁ、リュージを手懐けるのに色々お金要るかなと思って多めに借りた感じ。全部使ったわけじゃないから、二千ストーンは残ってるけど」


「今日中に返すなら残り四千ストーンか……一時間に六十ストーンが五匹と仮定して……十三時間ちょい? いや、無理だろ!?」


 しかも一日六百ストーンの利息だぞ!? それだけで二時間分の稼ぎが持ってかれる計算だ!


「心配しなくても大丈夫だってば。そこはちゃんと考えてるし!」

「本当かよ……」


 時給三百ストーンの狩りをしている俺達が一日で五千ストーン稼ぐんだ。絶対にまともな方法じゃない。いやまぁ、一日で返さないといけないわけじゃないだろうが、利息を考えると悪手だろう。


「簡単な話! もっと奥で狩ればいいんだよ!」


 某伝説の外国人絵描きみたいに気軽に言ってくれる。


「いや駄目だろ。完全にフラグだって。モーロックも奥には行くなって言ってただろ」


「モーロックは過保護なの! 他の冒険者だったら絶対そんな事言わないし! ネイルは二層で稼いでたんだよ? リュージはネイルより強いんだから平気だってば。ちょっと戦っただけでどんどん強くなってるし。もしかしたら三層だって……」


 完全に目が$マークになってやがる。


「だめだって。俺はモーロックにドネートの事を頼まれてるんだ。もしドネートになにかあったら義父さんに顔向けできねぇよ!」

「じゃあリュージは他に良い案あるわけ?」


 ムッとしてドネートが口を尖らせる。


「それは……ないけど……」


「でしょ? 一日一割増えるんだから、利息だけでも六百ストーン稼がないとダメなんだよ? 一層の稼ぎで返すとか絶対無理! 二層でだって一日じゃ無理だと思うし。ちょっとずつ返すとしても、早くから始めないと利息が増えちゃうじゃん! 今日はもう遅いし、狩れるとしても一、二時間が限界だし。とりあえず二層の様子を見つつ利息分だけでも稼いどけばちょっとは安心できるでしょ? 大丈夫だと思うけど、二層がきつそうだったら他の手を考えなきゃだし。とりあえず行くだけ行ってみようよ!」


「……まぁ、ドネートの言う通りだとは思うけど……モーロックはどうすんだよ。二層のドロップ持って帰ったら約束破ったのがバレるぞ」


 俺は嫌だぞ! 義父さんに怒られるのは!


「そりゃ怪我だけして帰ったら流石に怒られると思うけど。冒険者は実力主義の世界だし、無傷で二層のドロップ持って帰ったらむしろ褒めてくれるって! たいしたもんだ! ってさ。そしたら明日からこそこそしないで二層に潜れるし。どうせその内二層に進むんだから今行っちゃったって同じでしょ?」


 ドネートの言い分は一理ある。合理的ですらあるだろう。一方で、リターンばかり誇張してリスクを考えないのは詐欺師の論法と言える。ドネートは戦えない。一層の魔物ですら俺がいなければなすすべなく殺されるだろう。


 俺は自分とドネート、両方の命を守らないといけない。それは一人で戦うよりも格段に難しいと俺は既に実感している。ほんの小さな見落としや油断でドネートは呆気なく死んでしまう。魔物はいつどこからどんな攻撃をしてくるか分からない。


 頭上から降ってくるかもしれないし、地面から湧いて出るかもしれない。無害な何かに擬態しているかもしれないし、気づかないくらい遠くから飛び道具を放ってくるかもしれない。二層の魔物は一層よりも強くて厄介だ。そんななんでもありの状況で俺はドネートを守り切れるのか?


 俺は悩む。簡単には首を縦に振れない。他人の命がかかっているから。その命は、他の誰かにとっても大切なものだ。責任は重い。


 とは言え、この問題はこれから先ずっと付きまとう。俺の不安はドネートを足手まといだと言っているのと同じだ。まぁ、実際そうなんだが。それでも俺はドネートと組み、いずれは広い世界を見せてやろうと誓った。ドネートが無力なら、俺は彼女の剣となり盾となって守ってやる。それが出来ないなら、俺達の契約は成立しない。


「……ねぇ、お願い……」


 俺の葛藤を見透かすにように、不安そうな目をしてドネートが言う。


 多分、答えは最初から決まっていたんだろう。


 可愛い異世界ギャルにお願いされて、断れる俺ではないのだった。

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