第16話 ドロップ
「……いきなり難易度たけーな」
愕然として俺は呟く。
緊張やらネイルとのドタバタやらでよく見てなかったが、カウンターと逆側の壁は和製ホラーの呪われた部屋みたいに壁中小さなチラシくらいの大きさの依頼書が貼り散らかされていた。
人食い森に関する依頼書が多く、魔草やらキノコやら魔物の爪やらのいかにもRPGの納品クエ的な内容が並んでいる。数があるのは良い事なのだろうが、取りに行くからにはそれがなんなのか見分けられないといけない。
依頼書の中にはそれがどんな見た目をしているか絵を載せているものもあるが、それは全体の三割程度だ。その絵も、役に立ちそうもない落書きレベルがちょいちょち混じっている。別の三割は文字による説明のみだが、それだってまだ良い方で、残りの四割は名前だけでなんの説明もない。バンベラボボラってなんだよ!?
「なにが?」
ほとんど独り言みたいな呟きだったが、ドネートは聞き返してくれた。そんな事にすら、引きニートおじさんは小さな幸せを感じる。
「いやさ、森で金になる物を集めるにしても、こんな説明じゃよくわかんねーなって思って」
「店の連中だって全部覚えてるわけじゃないから。魔草とかキノコとかその手の奴は見つけるの難しいし、似たようなハズレも結構あるから。憶えやすいの別だけど、基本的には採取とか識別系の加護を持ってる奴がやる感じ。あたしは加護とかないからよくわかんないけど、その手の加護があればなんとなくわかるんだって。もしかしたらリュージにもわかるんじゃない?」
「俺にはそっち系の加護はないとおもうが思うが、実際行ってみてどうなるかってとこだな。期待はしないでくれとだけ言っておくわ」
ドネートが小さな溜息と共に肩をすくめる。
「ま、いいけど。一層で採れるようなものは沢山集めないと大したお金にならないし。大体の冒険者は魔物狩りがメインだから。こっちは魔物を倒してドロップを頂くだけ。魔核が落ちれば良い金になるんだけど、一層にいるような雑魚はまず落とさないんだよね」
ドロップを頂く?
「ドロップってなんだ? この世界じゃ魔物は死んだらアイテムを落すのか?」
声を潜めて尋ねる。
「落とすって言うのかな。あたしも実際に見たわけじゃないけど、魔物は死ぬと塵みたいになって滅びるの。その時に魔物に宿った魔力が身体の一部に集まって、そこだけ滅びないで残るんだって。魔物によって残りやすい部位が決まってて、色々使い道があって取引されてるの。もしかして魔核も知らない?」
「つーか、俺の世界には魔物自体存在してない」
「マジ!?」
目を丸くしてドネートが大声を出す。注目が集まり、ドネートは誤魔化すように咳ばらいをした。
「そんな世界、想像出来ない」
「俺はこんな世界を想像してた」
一応ラノベ作家だったんでな。
「?」
「なんでもない。こっちの話だ」
ドネートは興味有り気だが、とりあえず説明を優先した。
「魔核ってのはそこそこ強い魔物が持ってる心臓みたいな奴。宝石みたいで魔力の塊なの。魔導具の燃料になったり、そのまんま材料になったりするから結構いいお金になるよ。魔物についても説明した方がいいよね?」
俺は頷く。
「魔物っていうのは魔境にいる怪物で……って、じゃあ魔境の説明もしなきゃだめか。魔境は神様の加護を受けた土地みたいな感じ? 魔力が濃くて魔物が湧くの。奥に進むほど危険だけど、その分ドロップも良い。基本的には魔境以外の場所に魔物が湧く事はあんまりないけど、神様の気まぐれでわけわかんない場所に突然湧いたり、一時的にそうじゃなかった場所が魔境になったりする事もあるよ。そういう場所には主がいる事が多くて、そいつを殺せば元通りになるみたい。その手の仕事はもっと立派な店じゃないと扱ってないけどね。この国のお姫様は特別な加護があって聖女様って呼ばれてるの。神様の気まぐれを神託で知る事が出来るんだって。で、立派な冒険者の店は国に大金を払ってその情報を独り占めしてるの。魔境の主とか気まぐれで出来た魔境は危険だけど良い物をドロップするから」
……なるほど。
つまり、宇宙人の作ったインチキ異世界はかなりゲーム的だという事だ。
ドロップはそのままドロップアイテムだろうし、魔境とやらはダンジョンをイメージしているんだろう。魔境の主はボスモンスターかレイドボスで、気まぐれの魔境とやらは突発イベントか?
そしてこの国の姫様。多分、俺が城で出会った聖女風の子だけど、彼女はお告げという形でその手の突発イベントを予知する能力があるらしい。立派な冒険者の店は国と利権関係にあり、大金を支払う事で突発イベントによるドロップを独占していると。
こんなゲームみたいな世界にもちゃんと社会はあるだなと感心する。
ともあれ、今の俺には――少なくとも当分は――関係ない事だろう。
その後俺はドネートから一層で採れる憶えやすい採取アイテム及びモンスターの特徴や注意点の講義を受けた。
それが終わると俺達はモーロックが用意してくれた昼食を食べ、人食い森へと出発した。
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