第4話 全裸中年ミーツ異世界ギャル
「なんだ?」
「魔物か?」
「変質者だぁああああ!?」
拝啓天国のお父さんお母さん。恥の多い人生を送る息子をお許しください。
「ちくしょおおおおおおお!」
もうやだ! いっそ死にたい!
いや、本気で死にたいわけじゃないけど!
ファンタジッククソデカキャッスルの三階部分――天井が高いから現代日本換算で倍以上あると思う――からハリウッドフルチンダイブをかました俺は運よく庭の植え込みに落下して命を拾った。多分役割勇者の補正的なのもあるんだろう。
表に出ちまえばこっちのもの! とは行かず、クソデカダンジョンが屋内から屋外に変わっただけだが、なんとかかんとか城の敷地を飛び出して、今は城下町チックな場所を走り回っている。
城の外に出ちまえばどうにかなると思っていた俺は馬鹿だった。人の世に全裸中年の居場所はない。異世界だってそれは同じだ。なろう系には疎い俺だが、なんとなく詰んでる初期設定から始まる作品が多い事は知っている。貧困、毒親、滅ぼされるのが確定した悪役転生等々。けどよ、全裸スタートも大概詰んでると思いませんか!?
どうすりゃいんだ!
逃げ場なんかどこにもない! 俺を見れば誰もが悲鳴を上げて変態呼ばわりだ。話なんか聞いちゃくれない! 外には外でこの世界の警察チックな奴らがいてあっちこっちで警笛を鳴らして俺を追いかけている。罪状は全裸だ。服を買いたくても金がないしそれ以前に服を買いに行く服がねぇよ!
とにかく走って走って走り回る。
俺の
ともかく俺は考える。
全裸で大勢の前を走り回るのってなんかすげぇドキドキするな。
って馬鹿! 余計な事考えてる場合か!
プランA
このまま街の外に出て一旦落ち着く。そんで通りかかった旅人的なサムシングにお願いして少しずつ服と金を分けて貰い人権を取り戻す。
最大の難関はズボンだろうが、最悪上着を腰に巻けばギリギリ誤魔化せる気がする。全裸中年が土下座してお願いすれば十人に一人くらいは着ている物の一枚くらい分けてくれるといいな~という希望的観測だ。
マジで最悪の場合脅すか奪うかすればいいなんて頭では簡単に考えるが、社会と隔絶した引きニートの俺のコミュ力は最低値を下回ってマイナスだ。頭の中でならいくらでも勇敢な事が出来るが、実際その場になったら無理だろう。
プランB
この街がどれだけ広いのか見当もつかないしどっちに向かえば外に出られるのかもわからない。真っすぐ進めばその内端に突き当たるだろうが、めちゃくちゃに逃げ回らないといけない身の俺には無理な話だ。そもそも俺方向音痴だし。二回も曲がったら自分がどっちを向いてるのか分からなくなる。そうなるとプランAは現実的じゃない。
次善策を考えると現地調達をするしかないだろう。走り回った感じ、この街には露店が多い。中にはバザーみたいな感じで服を売ってる店もあった。真面目に商売してる服屋さんには申し訳ないが背に腹は代えられない。出世払いって事でどうにか服を拝借し、人目のない所で着替えられれば全裸中年を卒業できる。
よしこれだ!
そう決めた途端服を売ってる露店と出会わなくなる。引き返そうにも道なんか覚えてない。ようやく見つけても勇気が出なくて通り過ぎちまう。馬鹿馬鹿! 俺の馬鹿! 今は非常事態だ! ビビってる場合かよ! と思うが、やはり善良な現代人の俺だ。万引きとかハードルが高い。いい歳して怒られたらショックで泣くぞ? おじさんは繊細なんだ!
そうこうしている内に周りの景色が寂れだす。建物は古びて道は入り組む。通り過ぎる人々の恰好が貧しくなり、ガラも悪くなった。
やだ、怖い……。
もしかして、スラム的な所に迷い込んじゃった?
けど、これはチャンスかもしれない。スラム(仮)の連中は普通の市民程は全裸中年に驚かない。なんなら、もうそんな時期か、みたいなほのぼのとした眼差しを向けて来る奴もいる。俺は季節の風物詩か!?
ともかく、全裸中年を不審に思わない相手なら交渉の余地もある。スラムの人と話すのはドチャクソハードルが高いけど。問題は、警察風の方々――恰好は青っぽい制服を着たラフな近衛兵(仮)って感じだ――がしつこく追いかけてきている事だ。
走力でなんとか撒いているが、一人に見つかると警笛を鳴らされてごっそり集まって来る。なんとなく追い込まれているような気がするのは気のせいか?
そんな風に思う時はまず確実に気のせいじゃない。
案の定俺は袋小路に追い詰められる。
どうするどうするどうする俺!
向こうからは大量の足音が近づいてくる。周囲は建物に囲まれている。頑張れば最近流行りの――言う程最近じゃないか――パルクールよろしく屋根に上がって逃げられるか?
などと考えていると左手の建物の裏口みたいな扉が開いた。
「うぉ!?」
驚いてへっぴり腰になる俺に、ちょっと眼つきの怖い黒髪の若い女が手招きをする。
「こっち!」
え、いいんすか?
まさか異世界に全裸中年に優しいギャルがいるとは。
信じられず、俺は自分を指さして視線で尋ねる。
それ、俺に言ってんの?
「早くしろ!」
「はひ!?」
言われるがまま、俺は女の元へと飛び込んだ。
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