(28)権力、金、天使

しかし、事態はそう簡単ではなかった。


「では、ジア君、言いにくいが君に言っておかなければならないことがある。」

マイル上官は目を伏せながら話した。


悪魔の少年は、名前をジアと言った。クロノと同じスラムの育ちだ。両親は小さい頃病気で亡くなり、妹と二人で暮らしてきたという。

彼はスラムで暮らす中で、妹を守らなければならなかった。スリの腕は上がり、生きるために器用になったのだ。


「ほんとうは、君の妹をさらったこと、そして閉じ込めること、普通なら誘拐、監禁罪だ。しかし、その罪を認めさせることは出来ない…。」

マイル上官は、ジアに向かいそう話した。


「俺や妹が悪魔だから議員を罪に問えないんだな。悪魔に人権なんかないから。」

悪魔の少年ジアは怒りを込めて言った。


「残念ながら、そうだ。この世界では天使絶対主義が成り立っている。天使こそが正しく、天使の決めたことが絶対だ。なにせこの世界の権力者は全員天使なんだ。」


「そうだろうな、この世界じゃ、財力のあるやつ、権力、天使であるやつが勝つんだ。

悪魔がたとえ天使に殺されたって、犯人が捕まることはないんだ。」


三人は黙り込んだ。実際その通りだった。とある事件で何の関係もない悪魔が一人天使に殺された。しかし、その天使が捕まることはなかった。


この世界の天使こそ正義という考えは根深く、天使こそ美しく、清らかで、悪魔は黒い醜い羽を持ち悪の元に生まれたという風潮は消えていない。

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