第7話

 警察官がいなくなった後、神社には颯太と凛花の二人しかいない。

「なあ、凛花いまから花火大会行かないか?」

「今から行っても間に合わないよ。後十分しかないよ。」

 凛花は浴衣についた砂埃をはたきながら立つ。諦念の表情をしている。

「諦めるのはまだ早いぞ。歩けるか?」

「うん」

 二人は神社をでて、近くの川沿いに訪れた。すると、川の向こうから大きな花火が上がった。光の玉が一瞬のうちに視野いっぱいにまで広がる。隣には凛花が瞳をおおきくして空を見ていた。

「綺麗だね」

「ああ」

 二人とも感嘆な声を漏らす。

 色とりどりの花火が空に咲く。赤、黄、緑、青、ピンク、オレンジ。

「ソウ君。助けに来てくれてありがとう」

「当たり前のことだ。彼氏だからな」

「それにしてもなんで私達の情報筒抜けだったのかな?」

 凛花が疑問を漏らす。

「それは凛花の病室に盗聴器が仕掛けてあったんだ」

「え、そうなんだ」

 凛花が絶句した。

 再び二人は川の向こう側を向く。自然と二人は手を繋いでいた。

「今日はありがとう。私の彼氏になってくれて」

 凛花が颯太の方を向き感謝を笑顔で伝える。

「夢のような一日だったよ」

「うんそれは良かったよ」

「ねえ、ソウ君」

 凛花がおもむろに彼の名前を呼ぶ。

「どうした?」

「聞いて」

 空には巨大な菊型の花火が破裂するとともに、

「好きだよ」

 川の向こうに叫んだ。

「聞こえた?」

 はにかんで笑う凛花に颯太はドギマギしてしまうが、覚悟を決めた。

「俺も凛花が好きだ」

 颯太もまた川の向こうに側に叫んだ。

 花火大会もクライマックスに入り、様々なカラー、色々な形で空に打ち上げられる。

「私達両想いだったね」

「ああ、そうだな」

 凛花は颯太の肩にそっと自分の頭をのせる。凛花から、鼻腔をくすぐる匂いがした。

「このまま永遠に時が止まればいいのに」

 颯太は彼女に聞こえない声で呟く。

「ねえ、ソウ君。こっちむいて」 

 颯太は言われるがままにすると、唇に柔らかい感触が伝わる。



「……⁉」 


——キスをした。



 唇が長く触れる長いキスをした。

急にきた幸福感に、颯太の思考が真っ白になる。

十数秒の後、唇がようやく離れた。

「いや、だったかな?」

 申し訳ない表情を凛花が見せるので、颯太は彼女を抱きしめる。

「全然嫌じゃないよ」

 凛花の耳元でそっとささやく。

「忘れたくないよ。今日のこと、明日のこと、来年のこと。ずっとずっと覚えていたいよ」

 凛花が颯太の胸の中で、涙を流しながら呟く。

「大丈夫だよ。僕が覚えている。凛花が忘れたとしても、今日起きた出来事、感じたことは消えたりしない。永遠に心に残り続けるよ」

「うん」

 彼女の体温が感じられ、温かい。生きていると実感する。

「今日、ずっとこうしていたいな」

「そうだな。でもそれは不可能だな」

「そうだよね」

 ドンと花火が空を切りさく。

「今まで、ありがとう。颯太」

 凛花は感涙しながら囁く。

 花火の音が打ち消し、颯太には届かない。

 花火のように刹那な時間を二人は経験した。


 柊は凛花の病室の前に立って、ドアをノックする。

 しかし、中からの返事がかえって来なかた。中から彼女の涙声のみが聞こえる。

 柊はいつものように入室する。柊は涙の訳を聞かなった。ただ、彼女は手紙を書いているみたいだった。



 

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