第6話

 目が開く。部屋の中は薄暗いが数分もすれば目が慣れた。体のあちこち痛い。空気を吸う度に肺が痛むし、右肩を動かすと強い痛みが走る。

「凛花・・・」

 無意識に彼女の名前を呼んだぶ。

 そして、立ち上がる。足がふらついて倒れそうになるが根性で姿勢を保つ。

「凛花の所に戻らないとな。まずはここを脱出しないと」

 部屋を見渡すと高さ2m近くの所に窓そして、綺麗に積まれている茶色の袋しか無かった。『小麦粉』の袋のようだ。

「この袋を積み上げて窓から出れるかも」

 そう思い、袋を引っ張るがびくともしない。

「重すぎだろ」

 最初の案では無理なのが理解できた。腕を組み、考え込む。

「足に力を入れれば攻撃を交わすことができる。左手は動くので攻撃もできる。後は  銃をなんとかしないと」

 最終的には強行突破になった。

 しかし、ピストルを相手は所持している。この体では避けるのはまず不可能。

 ふと、小麦粉の袋を見る。

「そうか。これなら」

 突然、脳裏に閃光が走った。

 花火大会終了まで残り2時間。


「兄貴、あの坊やの部屋からコソコソという音がするんですが。様子見たほうがいいんじゃないすっか?」

 禿頭の男がポチャリ体型の男に報告する。

「そうだな。お前ら、あのガキを始末するぞ」

 ポチャリ体型の男が全員に指示する。

 すると、男たちは一斉に熱狂的な歓声をあげた。


 禿頭の男を颯太を監禁している部屋の扉を開ける。部屋に中を見ると男達はみな目を疑った。白い粉が部屋中に舞っているからだ。

 部屋の中に入った男達が次々と咳き込む。

「なんだこれは」

「多分あの坊主が部屋の中に小麦粉をまいたのかと。うわ...」

 禿頭の男が気絶した隣、颯太が闇に潜んでいた。

「てめえ」

 ぶっきらぼうに1人の男がつぶやき、颯太に右ストレートをかます。颯太は右足に重心を置き、避ける。颯太はそのまま左手で男のみぞおちにパンチを入れる。そのまま男は倒れこむ。

 すかさず、後ろにいた鉄パイプを持った男がこちらに目掛けて殴りかかる。颯太は腰をひねり、回し蹴りを炸裂させる。男はそのまま体が吹っ飛び気絶する。

 四人目の男が颯太の右肩をつかみ壁に押さえつける。颯太は男に強烈な頭突きをする。その男も倒れこむ。

「やってくれるじゃないか。僕の部下たちを」

 ポチャリ体型の男が部屋の中に入ってきた。彼の右手にはピストルがある。颯太にピストルを向ける。

「どのくらい私に恥をかかせるきかな?まあこの部屋でお前は死ぬ事になるのだがな」

「おっとここで撃たない方がいいぜ」

 颯太は頭の上に手を挙げながら挑発気味に喋る。

「そんなハッタリなど効かないよ」

「はあ、分からないのか」

 颯太は深い溜息をつき、説明をする。

「今、部屋に舞っているこの粉の正体は小麦粉だぜ」

「それがどうした」

「さっしわるいなあ。ここで撃つと、拳銃の火種が小麦粉に引火して粉塵爆発がおこるぜ」

 颯太は挑発気味に言葉を重ねる。

「それなら、お前も死ぬんだぞ」

 男の手が震え始める。

「ああ、いいさ。ここで死ぬなら道ずれだよ」

 力強くはっきりと断言する。

 一触即発の状態だ。

「くそガキめ」

 男はピストルを投げ、颯太に襲いかかる。巧みに颯太が交わす。隙ができた瞬間、颯太の左手が男のみぞおちにあたる。そのまま、地面に倒れる。

「なんとか勝てたあ」

 喜びのあまり腰が抜けてしまう。しかし、本題はこれからだ。凛花の保護をしないといけない。

 颯太は厳つい男のポッケトに入っていたスマホから警察に連絡する。

「ん、ロックがかけてない」

 颯太は男のスマホの中身を閲覧する。電話履歴に思わぬ人物の名前が載っていた。

「こいつが黒幕かあ」

 花火大会終了まで残り45分。


 警察に保護された颯太は今病院にいた。診察が終わりロビーの椅子に座っている颯太に警官の人が来て、『お電話があります』と電話を渡された。

「もしもし」

『やあ、颯太君。朝ぶりだね』

 電話の相手は凛花の父のようだ。

『色々とご苦労のようだね。でも君は私の約束を守れなかったね』

 怒っているのか、呆れているのか、電話越しからでは判断できない。

「いえ、今から探しにいきます」

 間髪入れずに颯太が答える。

『今の君にできるのか?大怪我をしているみたいだが』

 試しているような言い草に颯太はしっかりと反論する。

「なにがあろうと約束を守るのが僕なので」

 真剣に答える颯太。その言葉に固い意志があった。

「なら任せた。凛花の居場所は携帯に送ったからな」

「はい!」

 

 悠斗から逃げ続け凛花はとある神社まで来ていた。履きなれない下駄で走り続けたため靴擦れが起きてしまっていた。凛花は息を上げ神社の奥の方に行こうとする。

「鬼ごっこは終わりでいいか?」

 悠斗が鳥居をくぐり、凛花のいるところまで辿り着く。

「なんで逃げるんだ?」

 悠斗からすれば凛花が突然逃げ出したので不思議に思っても無理がない。

「悠斗君。ソウ君が今回の期末、国語で赤点取ったっていたわよね。ソウ君今回の国語の点数は31点よ。だからあなたが嘘ついているってわかったから」

「これは予想外だな。まあいいや。取引をしようか」

 悠斗がそう言うと、凛花にある動画を見せた。

 凛花がこの動画を見た途端、顔が青ざめ腰が抜けてしまう。

「このままだと颯太死んじゃうね」

 悠斗は颯太が次々と男達に暴行を受けている動画を閉じた。

「さあ、取引をしようか。颯太を殺して欲しくなければ、僕の彼女になってもらおうか」

 悠斗の邪心ある笑顔が凛花の精神を追い詰める。

 そして、「わか......」

「浮気とか関心しないよ凛花」

 鳥居の前に颯太の姿があった。

「ソウ君!」

 凛花の顔が晴れる。大声で名前を呼んだ。

「何故、颯太お前がここにいるんだよ!」

 思いがけない出来事に悠斗が声を荒げる。

「そんなことよりこっちには時間が無いんだ。悠斗お前警察に今すぐ自首しろ。容疑がばれているんだ」

「俺が正直物だと思うか」

 悠斗の目が豹変する。そして、ポッケトからカッターを取りだした。

「死んで」

 悠斗がそう呟くと颯太に向けて切りかかる。

「ソウ君!」

 凛花が絶叫した。

 颯太は構えを取る。刹那、左足に重心をかけ、悠斗の攻撃を交わす。隙をつくように、颯太が悠斗の持っているカッターナイフを払い落す。そして、待機していた警察官が悠斗の身柄を拘束した。

「見失ったよ悠斗」

 颯太が残念そうな顔をする。

「成長したんだな颯太」

その言葉を最後に悠斗と颯太は二度と出会うことが無かった。


 







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