第4話

『光陰矢の如し』という孔子の格言があるように、時間が経つのはとても速い。、あっという間に約束の日を迎えた。

 時刻は早朝。起床した颯太は新鮮な空気を吸いに外にでる。あたりはほんのりと明るく、過ごしやすい気候だ。北からの軟風が肌に触れると、ひんやりとして心地がよい。

 不意にポケットの中でスマホが振動したので取り出し画面を見ると、『非通知電話』と表示されていた。

 いぶかしむも、颯太は電話に出る。

『こんな朝早くからごめんね、颯太君』

 厳かな男性の声が電話越しから聞こえてきた。

 颯太は声を漏らす。何故自分の名前を知っているのか尋ねようとしたが、ふとその声に既視感を覚えた。昔どこかで・・・

 自分の記憶を遡り数秒。検索にヒットした。

「凛花さんのお父さんですか。お久ぶりです」

『ほお、覚えていたのか。颯太君と話すのは三年ぶりかな。小学校の卒業式以来だから忘れていると思ったのだが。覚えてくれて嬉しいよ』

 厳かな声が弾んでいて、どうやら感激しているようだった。 

 颯太もまた咄嗟に思い出すことが出来て心底ほっとしている。

『それでだが、今日は娘を頼むよ颯太君。なにかあったら許さないからね』

 スマホ越しからでも伝わる圧力に颯太は数秒慄いてしまう。が、颯太も見劣りせずに気骨な返事を返す。

「ええ、任せてください」

『ごめんね。ノイズが入ってきてうまく聞き取れんかった。もう一度頼めるかな」

 もう一度懇親の返事をするも、

「はい。今日一日任せてください」

『ごめんな。やはりノイズがひどく聞こえんわ。取り合えず...』

『凛花さんのお父さん少しよろしいでしょうか。ドナーにt』

 電話越しから若々しい男性の声が聞こえたのを最後に通話が途切れた。

「電話越しから柊先生の声がしたということは...凛花のお父さんは病院にいたことになる。こんな朝早くから何を相談するのか...」

 考えてもどうしよもないことなので思考を止めた。

 ただ、穏便ではないという事が感じられた。


 現在は集合時間10分前。天気は雲1つない快晴。そのため日差しが強烈で猛暑が絶えない。太陽が南中に到達しないで気温は34度。午後からはさらに暑くなると見聞している。

 颯太は凛花と待ち合わせの場---クルーズ船乗り場りにいる。待ち合わせ時間より若干早く来たため、颯太は現在アイスクリームを頬張りながら、歩いていた。辺りを散策しているとあっという間に待ち合わせ時刻を過ぎていたので、急いで戻るが遅かった。凛花が既にいたのであった。

「おはよう」

 何気なく挨拶を颯太がする。

「ソウ君、おはよう」

 ニコニコと笑顔で返事を凛花が返すが、目が笑っていない。彼女の笑みに謎の圧迫感を颯太は感じた。

「その...遅れてごめん」

 実際は颯太の方が速く来ていたが、言い訳にしか聞こえないと思い心の引き出しにしまう。代わりに謝罪の言葉を口にした。

「まあ、いいよ。ねえ......この服どうかな?」

 凛花が自分の服を手でさす。頬が赤く染まっていた。

 颯太は意識を凛花の服に集中させると、いつもと雰囲気が違うことに気が付いた。

 まずは髪。いつもは梳かしているので肩までかかっていた髪が、後ろで一つ結びにまとめられている。

 次に服。トップスはシンプルな白Tシャツ、ボトムにストライプスカート。キャップを被っているせいかスポーティーさが一層と目立つ。容姿の華奢で、病人とは思えない・・・

颯太はいつもとのギャップにやられたのか、ドギマギしてしまう。同時に颯太は遅すぎる理解をする。

長年近くにいたけど気づかなった。彼女がアイドル並み、いやそれ以上の美少女に。確かに周りの女子と比べると頭1つ分抜けていると思っていたが、ここまでとは思はなかった。現に周りの視線がこちらに集まっていた。

 蚊が得てみれば高校に進学してから彼女はずっと入院生活をしていたので、その側面しかみていなかった。プライベート姿は初だった。

「うん。とてもに、似合っているよ」

 頬をかきながら颯太が答える。

「そう、なら良かった」

 凛花が素っ気なく返事をして俯いてしまう。

 凛花の顔が先ほどまでより一層と赤みをましていた。

 颯太もだんだんと赤面する。両者の間にぎこちない雰囲気が流れる。

 このままではらちが明かないと思い、颯太が言葉を絞りだす。

「それじゃ、チケット買いに行こうか」

「う、うん」

 はにかんで笑う凛花を横目に見ながら、ゆっくりと歩きだす。

 この時はまだ知る由が無かった。陰で颯太達を黙視している輩に。


「パンケーキ美味しかったね」

 十分に堪能したらしく笑みを零す凛花。

「ああ、そうだな」

 颯太もまた満足しそうに返事を返す。

現時刻は1時を回った頃だ。スケジュール通りなら次に向かう場所は水族館。二人は歩いて目的地に向かっていた。随分と雰囲気が和らいでいいたが、凛花はどこか不満げであった。

「ねえ、ソウ君。ちょっといい?」

 凛花が颯太の袖を引っ張り、人混みの中二人の足が止まる。

「今日は私の彼氏でしょ?」

 頬を真っ赤に染ながら言葉を紡ぐ。

「て、手繋いでいいかな?」

 そう言うと凛花が左手を差し出す。

「うん。いいよ」

 颯太が凛花の左手を自分の右手に重ねたので、凛花は颯太の手を強く握り返した。

「頼りなくてごめんね。それじゃ、行こうか」

 颯太の紳士的な対応に凛花は満足げに、微笑む。

 

 アザラシ、イルカ、ペンギン等の様々な動物・魚を回覧していくうちに時刻が4時30分を過ぎていた。

「電車間に合うのか」

 颯太が息を上げながら質問する。

「間に合わせるの」

 凛花が颯太の手を引っ張り、小走りで駅に向かう。

「た...体力落ちているだろ。無理しない...方が賢明じゃないのか?遅れても何とかなるでしょう」

「まあ、そうだけど」

 不満げに凛花が返事する。

 結局、間に合わなかった。

 この光景を見ていたひとりの男が呟くいた。

「そろそろ作戦実行しますかと」


 


 


 




 


 


 

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