第53話 人生何が起こるか分からないものだ

 2005年にニューヨークに出張で行った時の事だ。有給を使って、オフを一日取った。そして、かねてから、興味を持っていたイントレピッド海上航空宇宙博物館に行った。そこでスウェーデンから来ていた女子二人と知り合った。彼女たちは、ベビー・シッターの仕事をしていた。条件としてアメリカの滞在が許される。


 彼女たちの名前は、アレクサンドラとキャロリーナであった。二人とも20代前半で、私はアレクサンドラの方が好みだった。小太りだったが、ふんわりした感じ。控えめな人だった。彼女たちは私の仕事を聞いてきた。私は、世界的に有名なメーカーで営業をしていると答えた。スウェーデンにも、製造工場があるのを知っている?と聞いたら知っていると答えた。


 私は、彼女たちに居酒屋に私のおごりでに行かないかと提案した。この居酒屋は、はじめて、上司と出張に来た時に連れて行ってもらい、とても美味しいことを知っていた。彼女たちは、日本のレストランなら一度行ったことがあって、竜田揚げがすごい美味しかったと、キャロリーナが言った。そして、オッケー・レッツ・ゴーとなった。


 食事が終わって私は、彼女たちとメール・アドレスを交換した。何度か、やり取りをするうちに、アパレルの会社で働いてるアレクサンドラがまた会いたいと言ってきた。私の勤務地である福岡に来たいと言う。ただ、エアー・フライトのチケットが高いので二の足を踏んでいるとも言うのでチケットは心配するな買ってやると返信した。


 私は、当時29だったが独身生活を送っていた。仕事が忙しく、買い物に行く暇が無かった。また、ファッション・センスもなく特に衣料品にかけては無頓着で、スーツなど手頃な値段だったら、これでええやろと適当に購入していた。食事は、社員食堂を利用していたし、会社が借り上げたワンルーム・マンションに住んでおり、貯金は増える一方だった。


 だから、太っ腹だったわけだが、アレクサンドラは、チケットはとりあえず買ってもらうが、月々少しづつ返すと言う。それじゃあ、そうしても良いよと、返信して、春に彼女は、福岡に来た。私は、日曜日に彼女のガイドをして、繁華街を案内し、屋台のラーメンを食べに行った。


 彼女は、ラーメンが大好物になったようで、私が仕事をしている間、毎日ラーメンを食べに行ったと言っており、「スウェーデンにもラーメン屋があったらいいのになあ」と嘆息していた。私が仕事を終えて部屋に帰り、インスタントのラーメンなら、作れるよと言って食べさせたら、美味しいけど店の味とは違うと言った。


 夜、セックスの話になった。彼女はバージンだった。そして、彼女は、あなたの初めての恋人は、どんな人だったの聞くので大学の軽音学部で知り合った女子学生だよ、ただ、私は童貞切りはソープランドであると言った。


 彼女は、古風な人で、婚前交渉はしないと言った。私は、ソープにたまに行きながらではあるが、身勝手にも古風な女性が好きなので、婚前交渉はしない方がいいねと言った。それから、二年メールでやりとりをして、彼女は年に一回福岡に遊びに来た。一度、彼女は、一人で大阪、京都、東京と回ったが、福岡が一番良いと言った。


 三年目、彼女は、私が結婚話を持ち出さないことに、しびれを切らし、結婚したいのか、したくないのか、はっきりしてほしいとメールに書かれていた。私は、結婚したいと返信した。私は、貯まっていた有給を使い、単身彼女の住むストックホルム郊外で式を挙げてきた。二次会は、福岡でアレクサンドリアと彼女の妹、そして、私の家族や友人に集まってもらい、旅館で飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをやった。


 しかし、実はそのころ、私の会社の業績は伸び悩んでおり、リストラが始まっていた。私の営業成績は、お世辞も良いと言われるものではなく、はっきり言って悪かった。そこで、思い切って早期退職制度を使い、実家の近くにある神戸市役所に勤めるべく予備校に通い勉強したが、試験に落ちてしまった。非常にマズイことになったぞと思い、二年目に臨んだが、これも不合格であった。


 アパートでアレクサンドラは、必死で勉強して落ち込んでいる私を見て、「人生、思い通りにならないことなんか、たくさんあるわよ」と慰めてくれた。これからどうするか考えた。そして、今、私はスウェーデンのストックホルムにある日本人観光者向けの旅行社で働いている。まさか、私がストックホルムで働くとは思っていなかった。人生何が起こるか分からないものだ。

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