第39話 統合失調症の元林君

 元林君という男性と、ネット上に小説を公開するカクヨムというウェブで知り合った。リアルで会ったことはない。彼は、鳥取に住んでいて、私は東京に住んでいる。私たちは、お互いの小説をTwitterで論評しあっている。彼は、私よりも12年下の19歳。統合失調症を患っている。幻聴がひどく、頭痛もするときがあるらしい。


 ウィークデイは、精神病院に併設されたデイケアに通っている。プログラムにカラオケがあるときだけ、男性なのに80年代にヒットした松田聖子の「青いサンゴ礁」を歌うそうだ。あとは、コーラを飲みながらソファに腰かけて、友人と話をして夕方に帰ってくる。夕食は、同居しているお母さんと食べている。


 彼が、私に好意を抱いているのはものすごく分かる。年上の女性に憧れるだろうし、イラストレーターさんに描いてもらった私のTwitterのアイコンが美人だから。赤いTシャツを着て、胸を大きめにしてもらった。私は彼に既婚者なのかどうか、また、彼氏がいるのかどうかを知らせていないし、彼も聞いてこない。


 私は自分のプライバシーをネット上でやり取りすることに抵抗がある。どんな悪い人がいるか分かったもんじゃないから。私は、大昔の彼氏と別れてから恋人はいない。別れた理由は彼の浮気。良い人だと思っていたから正直ショックだった。私は恋愛が下手だ。さみしさが長く続いたが、もうなれた。さみしさが当たり前になってしまった。ただ、好きな人はいる。でも、今は彼よりも私は小説を書く方が好きだ。まあ、一種の病気だね。


 元林君の小説は、ごくまれに私にヒットすることがある。私よりも若いのに人生経験があるように思う時もある。ただ、元林君には、それ以上のことを求めたくはない。それは、やはり彼が統合失調症を抱えているから。実は、私の兄の奥さんの妹、仁美さんが、同じ病を持っていた。彼女は、パートをしながらながら、両親から援助を受けてワンルームマンションで暮らしてたんだけど、隣人が自分の悪口を言っているという妄想が出てしまった。


 ある晩、彼女は隣に住む女性の玄関を何回も蹴って、大声で怒鳴り散らした。女性は、警察に連絡したんだけど何かあるまで動けないと言われた。怖くなった女性は、次の日にお父さんに部屋に泊まりにきてもらったんだけど、仁美さんは同じことをした。そして、お父さんがドアを開けると、そこには恐ろしい顔をしたニッパーを持った仁美さんいて、「てめえ、殺すぞ」と叫んで、ニッパーを振り回した。結局、警察に保護された仁美さんは精神病院に入院することになった。


 私は、はっきり言って元林君や仁美さんが怖いと感じる。精神障害の事件は、病気がそうさせると聞いたことがあるけど、故意であろうと病気であろうと、もし暴力をふるわれてしまえば同じことだから。それに、たまにニュースになるけど、どうしても精神障害としか思えない殺人もあるし。だから、元林君からどんなにプッシュされてもリアルでは会えない。


 でも、私が同じ病気になる可能性がゼロってわけじゃないし、そうなったら会うかもしれない。現実味は薄いけど。私が、彼のメールに対応すればするほど、彼の私に対する想いが募ってくるのは分かっている。でも、彼は彼でリアルで会おうと、考えていないのかもしれない。逆に、私がさみしさの中を生きている女だと見抜いて、連絡を取ってきてくれているのかもしれない。お互いが距離を置いてネット上で付き合う仲。これが、ずっと続いて行くんだろうな。

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