第33話 田好先生
1986年、私は大学受験に失敗し予備校に通っていたのだが、どうしても夜眠れず、昼すなわち授業を寝るという事をしていた。そんな中で唯一起きて聴いていた授業があった。現代国語の田好先生の授業である。先生は、時々、テキストはすっ飛ばし、好きなことを話すという授業のスタイルを取られていた。
田好先生は韓国旅行の話をしてくれた。一杯飲み屋で知り合いになった韓国人と、自己紹介をしたら、「私は韓国人です」、「私は日本人です」って何なのコレなどと言って生徒の笑いを取っていた。そんな中、スキー旅行に行くお金、5万円もあれば韓国に行けるから、行ってみればという話をされた。
私は、直感的にそうしようと思った。それは、スキー旅行みたいなナンパ目的のチャラチャラしたもんなんか、誰が行くかいという思いもあった。また、私は痩せているので女性に相手にされないだろうという諦念もあった。そのうち韓国行きは忘れてしまっていたおんだが、部屋の壁に何となく、貼っていた世界地図を眺めていた時に思い出した。韓国に行くことを。
まずは、旅行資金だというので、JR新大阪のカレー屋さんでバイトをして10万円を貯めた。カレー屋のバイトというのは楽で、私の担当はご飯にカレーをかけてお客さんに提供するというものであった。だったと思う。もしかしたらお皿も洗ったかもしれない。記憶が飛んでいる。
で、とにかく、韓国に行くわけだが、そのくだりは、私のこのカクヨムの韓国一人旅を参照してください。韓国旅行で特筆されるのは、恥を忍んで書くが、睡眠薬強盗に遭った事である。私はカクヨム以前に、確かFC2だったと思うが、ブログに旅行記を書いていた。しかし、何かが足りない。なんなんだろうと思っていると、そうだ、こんな事があったんだと田好先生に伝えようと思い、予備校に連絡を取った。
そして、先生にブログを読んでもらい、飲み屋に連れて行ってもらった。そこで、日本酒と刺身をご馳走になった。そんな中で、私が授業を受けた翌年から、先生が学生を連れて日韓の交流会を行っていた事を知った。と、まあ、それはさておき韓国旅行の話になって、先生は「まあ、韓国行って、睡眠薬強盗に遭うやつもいるわな」と笑った。無責任やなあ。でも、ご馳走になったし水に流すことにした。
この睡眠薬強盗の話を友人にすると、飲みに行こうなんて、いきなり誘ってくる韓国人について行くからや、と言われる。でも、先生、韓国人と一杯飲み屋で飲んでいたしな…。それは、ともかく、先生はアロハを着て授業に行っているのだが、電車に乗っていると、スーツを着たサラリーマンから「田好先生!」といきなり声をかけられて、「うおっ」と驚くことがあるとおっしゃっていた。みんな先生のことを慕ってるんやろうな。
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