第32話 ジウちゃんの眼差し

 これは、性格の優しい先輩に聞いた話なのだが、大阪の西中島には、韓国エステという店がたくさんある。店では、最初シャワーに入り、コースによっては、垢すりをしてもらい、そして、体をマッサージしてもらい、最後に手でフィニッシュしてもらうそうだ。


 そして、この店はどういう訳か、風俗店にはカテゴライズされないらしい。悪いことをしている訳ではないし、病気を移される心配もないので、先輩は重宝している。ただ、今は新型コロナで濃厚接触があるのでヤバいが…。


 そこでの話なのだが、先輩はいつも行っている店が、おばちゃんが多いのに嫌気をさして、少しグレードの高い店に行った。そこで、名前は忘れたが、仮にチェちゃんとしておこう、若手のキレイどころに当たった。そして、ファンになったのだが、性格がキツイのだという。マッサージをしてもらっている時にお尻を触ったら、ものすごく怒られたらしい。おっぱい見せてと言っても、激しく拒絶。その度に、シュンとしていた。前に行っていたおばちゃんの店では、こんなことはなかったらしい。


 ある日、先輩は20年前にニューヨークで仕入れてきて、楽器屋さんで修理してもらったたばかりのベースのピックアップを持って店に遊びに行った。このピックアップは、先輩曰く魂がこもっている宝物だ。そんなものを持って店に行くこと自体どうかしているのだが、その宝物をマッサージしてもらう部屋から、シャワールームへと持って行く際に、チェちゃんに「ここに置いておいていても大丈夫だよ」と言われた。


 いや、しかし、大切なものだからと言って持って行ったらしい。そして、シャワールームの脱衣所で、また、「ここに置いておけば大丈夫だよ」と言われた。それで、いや、ビニール袋に入れているから大丈夫だからと言うと、「中に入れると濡れるよ。ここに置いておけば大丈夫だよ」と二度、言われた。


 そこで、先輩は、「ガタガタ、言うな!中に入れさせろ!」とシャウトしたらしい。すると、それまで、キツかったジウちゃんの眼差しが、ハッとしてカッコいい男を見る目に変わったそうである。それで、先輩に、お前も店に行ったら、最初にビシッと決めてこいと言われているのだが。まあ、行かへんけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る