第28話 話は、それからじゃ!!

 私の友人に本山というやつがいる。彼とは中学の時から塾が同じだった。高校は中レベルやや下への進学だったが、大学受験は頑張って、慶応大学に進学した。そして、三菱銀行に就職した。その本山が私と同じ高校の田中さんと1992年に結婚することになった。結婚式に呼ばれたので、出席した。まあ、普通の披露宴でなんの印象も残っていないが、二次会が変わっていた。


 彼は、ベースを弾くのでライブハウスを貸し切って、バンドで演奏をするというものだった。まあ、その曲も、グローバー・ワシントン・ジュニアのJust the two of usしか印象はないが、問題は演奏終了後、司会者がメンバーをどこそこの会社の何々さんと紹介したことだ。そして、メンバーはすべて大企業のサラリーマンであった。


 私は、自慢ではないが、当時から地球温暖化の問題に気付いていた。だから、大企業に何の疑問もなく就職して二酸化炭素まき散らすやつはバカだと思っていた。もっとも、なにがしらの理由で絶対に大企業に就職する理由があったやつもいるかもしれないが…。本山は、入行して数年でニューヨークに転勤になった。そして会社は、ワールド・トレード・センターに入っていた。私は、アリゾナ州でモニュメントバレーに観光客をガイドする仕事をしていたが、就労ビザ更新のために一時帰国していた。


 そして、911同時多発テロが起こる。私は、驚愕し本山のお父さんに電話をかけた。本山の電話番号を知らなかったからだ。すると、大丈夫です、今、東京にいますとのこと。そして、お父さんに、本山の電話番号を聞いて、彼に電話した。すると、まず、嫁が出た。「半年前に帰国してたから、私たちは大丈夫かなーって」と言う。本山は、ビルに旅客機が突っ込むのを見て「あー、テロやーって思った」と言った。


 時は過ぎ、15年後私たちはFacebookでつながった。すると、本山は「お前は何してんねん。結婚の噂も聞かんし、活躍していることも聞かん。俺は東京に家がある」と言う。それで私が、「2000年当時、アメリカで仕事していたんだけど、それから躁うつ病を患うようになったんだよ」と答えた。すると、彼は「そうか、俺と同じ時期にアメリカで働いていたんやな」とだけ返した。あのなあ、本山よ。まず、「お前は何してんねん云々」と言ったことを詫びろや。話は、それからじゃあほんだら。

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