第27話 絶交

 私の高校時代の友人に福岡というやつがいる。こいつは、理系で東大の院に進んだのだが、途中でどういう訳かグレてしまった。そして、関東では名の知れたアウトローに私淑ししゅくし、新宿の歌舞伎町で不動産の仕事を始めた。


 マンションの賃貸もやっていたようだが、ヤクザが不法占拠するのだと言う。それで、こっちも敵対するヤクザに頼んで、と言っていた。コイツ、ヤクザ使ってんのか、こわっと思った。ただ、彼の背広の内側には、トラの刺繡が施されており、お前、中・高校生の学ランじゃないんだから…。


 その後、福岡は、どういう訳か不動産の仕事はやめて、大学で学んだ医療関係の仕事を始めていた。海外の医療機器や製薬が、厚労省の認可を取る仕事である。翻訳が仕事の主なのだが、大変な利益を上げていた。彼は、不動産でも大きく儲けていたので、5000万円する白のフェラーリのテスタロッサに乗っており、派手な生活を送っている。


 私は最初の会社を辞めて、日本語教師の資格を取り、ベトナムのハノイの学校で教えていた。福岡に、夏に帰国するよと、メールを打つと離婚して今女がいなので、お前の伝手つてで、女性の日本語教師とコンパさせてもらえないかと言う。それで、私は、日本語教師育成学校の女性の先生にコンタクトを取り、何名か女性の日本語教師を集めた。


 居酒屋で、約束の時間前に現れた福岡は、私に向かって、お前みたいなやつが、放火するんだと言った。彼は、私が以前、パニック障害を発症して安定剤を飲んでいたことを知っている。カチンときて、スリーパー・ホールドでもかけてやろうかと思ったが、ここは大人の対応を取った。そして、私は、ああーっと思った。こいつは、44人が死亡し、3人が負傷する被害を出した歌舞伎町ビル火災の事を言っているのじゃないかと。こいつ仕事で関連してたんじゃない⁉それで、職種を変えたんじゃないか⁉


 時が経って、女性の教師たちも集まり飲みだしたのだが、福岡の仕事の話になった。医療機器、製薬ともに、それはそれで良いのだが、私にとっての問題は動物実験である。これは、薬害が起きたときに許可を出した厚労省のアリバイとして使われる。動物実験では、大丈夫でしたと。


 しかし、動物と人間は違うので、根本的に比較の対象にならない。しかも、実験はむごい。私は、PTSDを作るために、犬の足をハンマーで打ち砕いた写真を見ている。可哀そうな目をした犬の写真が脳裏から離れない。唯一の救いは、この子がもう亡くなっている事だけだ。それで、福岡に、お前動物実験どう考えているんだと問いただしたところ、「そんな小さなこと」と言った。イカレている。もう、お前なんか絶交じゃ。ボゲ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る