第18話 父と祖父の影
私の父親は、大阪ガスに勤めていた。今はもう退職しているが、その道を選んだ理由には、祖父の影が色濃く影響していた。祖父もまた大阪ガスの重役であり、その同級生の会で飲みすぎたまま、熱い風呂に入って心臓麻痺を起こし、命を落とした。
父親は、体が弱く、小学校を二年も休んでいた。しかし、その間も勉強に励み、学校に復帰した際には級長に選ばれるほどの優秀さを見せた。ただ、自分の体の弱さを自覚していた父親は、無理をせずゆるやかな人生を送ろうと心に決めていた。
私は、父親が大阪ガスに就職できたのは重役だった祖父のコネだと知り、それが許せなかった。コネで一人が入れば、コネの無い人が一人就職できない。不公平だ。ある日、実家に寄った際、私は父親に詰め寄った。「大阪ガスに入ったのはコネだろ?」父親は「そうやあ」とすねたように言った。
父親は大阪ガスに入社して数年後、結核にかかり二年間静養したが、その間も福利厚生がしっかりしており、生活は安定していた。大企業の強みだった。結核は「贅沢病」とも呼ばれ、栄養のある食事が必要で、母親は豪華な食事を用意していた。
最近、再び実家に寄った際、私は父親に尋ねた。「他に働きたかった企業はなかったのか?」すると父親は、昔、家の近所にあった伊丹市役所で働きたかったと言った。理由は、役人が仕事をしているように見えなかったからだ。私は「じゃあ、役所で働けばよかったじゃないか」と言ったが、父親は言葉を濁した。
母親にこの話をすると、「お父さんは市役所で働きたいとおじいちゃんに言ったのよ。でも、おじいちゃんはそんなぐうたらした仕事はダメだって、無理やり大阪ガスにコネで引っ張りこんだのよ。おじいちゃんの言葉は絶対だったからねえ」と教えてくれた。
そうだったのか。だから、父親は「そうやあ」とすねたように言っていたのか。これまで聞いたことのない逆コネだったのだ。父親にとって、大阪ガスと伊丹市役所、どちらで働く方が良かったのかは分からない。だが、多くの人が冷血な役所よりも大阪ガスで働く方が良かったと思うだろう。
父親の人生には祖父の影が常に付きまとっていた。私もまた、その影の中で育った。そして、今、私は父親の過去と向き合い、その影を乗り越えようとしている。
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