第15話 怖いお母さん

  私にもう亡くなったけど、屋本やもとさんという女友人がいました。彼女の息子さんは、うちの息子と小中高そして、予備校も一緒でした。屋本君は体も大きく、運動神経も抜群、なおかつイケメンで中学の時は番長をしていたそうです。屋本さんとは、カブスカウトでお母さん役をやるデンマザーと陶芸のクラスでも一緒でした。


 屋本さんは、犬を二匹飼っていたのですが、ご主人が東京へ転勤することになり、私に犬を飼ってくれないかと頼んできました。しかし、うちは、猫を飼っているからダメなのよと断りました。


 すると、彼女は共通の友人である様山さまやまさんに、「犬も飼えないなんて情けない」と言ったそうです。そのことを様山さんから聞きました。私はそんなことを屋本さんに言われているのよ、と息子に言うと顔を真っ赤にして怒っていました。


 ちょうど、屋本君が帰阪して、私の息子たちとミスター・ドーナッツに行ったそうです。屋本君も、なあ、飼ってくれよと言ったのですが、いや、ダメだようちネコいるからと息子も断りました。


 そしたら、俺んとこの家族が不在の時に、お前の弟に良い時給で犬の餌やりのバイトをしてもらっていた、と屋本君が言ったそうです。息子は、弟がいくらもらっていたか知らなかったのですが、それを聞いてそんな姑息なこと言うかとまた激怒したそうです。


 息子は、バイトで稼いだお金が数万円財布に入っていたので、「これでええやろ」と一万円をテーブルに叩きつけようとしたそうですが、一万円は大金だなあと思いとどまったそうです。あの時、叩きつけてやれば良かったのに、情けないですね息子は。今は、後悔しているようですが。


 数日後、息子がカーポートでバイクを磨いていると、様山さんが運転する車が来て、助手席に屋本さんが乗っていました。様山さんが、「お母さんいる?」と聞いてきたそうです。


 まず、この様山というオバハンは、一体どっちの見方なんだと息子は思ったそうです。同時に、屋本さんは、こっちを向いて笑顔を見せていたそうです。それを見て、息子は「犬の二匹も飼えないなんて情けない」と言っていながら、笑顔を見せる、一体、どういう神経をしているんだ、このオバハンは‼と思いながら、無言で睨みつけました。そうしたら、様山さんたちは、「あ、いないのね」と言って帰ったそうです。


 あれから、20年後、私は、お皿を一枚割ってしまいました。そして、代わりのお皿を探しているときに孫と遊びに来ていた息子が、「ああ、これ良いじゃない?」と言うんです。あ、これは、屋本さんから買ったお皿よと答えました。すると、息子がまた怒って、「犬の件で、『情けない』なんていう屋本のオバハンから買ったお皿なんか捨てろっ」て言うんです。


 「ん?違うのよ、彼女は私に一目置いていたの。ピアノの教師をやって仕事をしていたからね。それに、彼女が東京に行く直前に、犬の件で『後足で砂をかける事なんかされたくない』って言ってやったら、彼女、絶句してたわよ。お母さんだって怒ったら怖いんだからね。それに後になって三万円の商品券送ってきたんだよ」


 息子は、私が普段おとなしいので、そこにつけこまれていたと、勘違いしていたようです。

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