第8話 そら、見たことか

 これは、カクヨムの私の旅行記『アメリカ一人旅』で、メキシコのハイウェイをレンタカーで飛ばし警官に捕まり多額な罰金を吹っかけられ、ディスカウントしていくうちに、切れられて手錠をはめられ、拳銃をこめかみに突き付けられた田原のその後の話である。彼は、大学を卒業後、一般企業に就職したが水が合わなかったのか退職して、予備校に通い地方公務員になった。もともとは、自営でラーメン屋をやりたいと言っていたのだが、公務員という真逆の仕事に就くようになり、自分の中の何かを失ったようで腑抜けな顔つきになった。


 そんな彼が、その役所の中枢である企画調整課に移動を申し込んだところ、通ってしまった。しかし、何を企画して良いのかが分からず、女性の課長に「これ、どうすんねん?」とため口をきいた。役所とはいえ、女性が男社会で仕事をするのは大変である。そして、企画調整課の課長ともなれば、エリート中のエリートでありプライドも高い。それで、どうも田原は、相手にされなくなったようだ。その結果、彼はふさぎ込み心療内科行へき、適応障害と診断され抗うつ剤が処方された。しかし、彼はこの薬を飲んでいなかった。


 役所を会社を休みがちになった彼に、課長は電話で薬を飲んでいるのかと聞いた。すると、彼は馬鹿正直に飲んでないと答えて、何をやっているんだとなった。そんな時、彼と大阪ミナミのカプリチョーザでスパゲッティーを食べた。企画が分からないと言うから、企画関連の本をネットで調べて読んだかと言うと読んでいないという。役所の企画は、自分が天下りする事業をつくるのが目的だからなんか自分のやりたいことないんか?と教えてやっても「はあー」と言う。それで、その日は帰って行ったのだが、彼の後姿は蹌踉そうろうとしていた。 


 その夏、彼から今から大学のクラスメートと和歌山の別荘に自家用車で行ってくると電話があった。お前、ほんまに適応障害なんか?抗うつ剤飲んでるような人間は、車なんか運転できんぞ、と言ったら無言のまま電話が切れた。こいつは、私が躁うつを患っていることを「ネタや」と言っていた。その言動に対して私は、心底頭に来ていたのだが、いざ自分が適応障害になってみて自分の事をどう思っているのだろうか。

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