第2話 日本人女子大好き韓国系アメリカ人

 私は、かつて米国のラスベガスのコミュニティ・カレッジに留学したことがある。しかし、これは留学自体が目的ではなく、グリーンカードと呼ばれる永住権を取得するのが目的であった。カレッジに籍を置くと、日本のマイナンバーのようなソーシャル・セキュリティ・ナンバーがもらえる。これがないと、永住権の前段階である正規労働ビザが取得できない。


 アメリカに来る前は、コンサルで経済調査をしてレポートを書くのが仕事だったので、グリーン・カードを取得するまでのドタバタを本にしたいとも考えていた。また、最初の一人旅が、韓国で興味を持ち続けていたので、当地でも韓国系の友人を作り、韓国系のコミュニティとかかわりををもっていた。


 韓国系の友人は、ジョナサンと言って、私より5、6才年下だった。彼とは、カレッジの音楽の授業で、ソウルの音楽祭で新人賞をとったアーロンという同じ韓国系のクラスメートの紹介で知り合った。ジョナサンが教会でバンドを組もうとしていてギタリストがいないので、一度会ってみてくれないかという事だった。私は、アルバイトをしており忙しかったが、結局、ジョナサンの曲を教会で弾いた。


 ジョナサンは、勉強はできるやつでロサンゼルスの有名な大学の経営学部を出て、英語教師を日本に派遣するジェット・プログラムに受かり、日本の静岡の高校で二年英語を教えた。ただ、ジョナサンは、アメリカに帰国後プー太郎になってしまった。


 彼のお父さんは、韓国の東京大学と呼ばれるソウル大学を卒業し、高校の英語の先生をしていたのだが、アメリカに移住してカジノで働くようになった。お母さんは、バイオリニストだった。そして、お兄さんは弁護士になった。お母さんは、ジョナサンがプーになって頭を悩ませていた。


 私は、彼にロサンゼルスの大学で経営学部を卒業しているのだから、どこへでも就職できるだろう、できないのなら経営学修士(MBA)でも取ってステップ・アップすればいいじゃないか、お前んち貧乏じゃないんだからと言っていたのだが、彼は、「競争、競争、俺はこれが嫌なんだ」と答えていた。それで、プーをやっていた訳だった。


 特筆されるのは、ジョナサンは、ジェット・プログラムの期間中に、日本人ガールフレンド9人も、とっかえひっかえしていたのである。あいつの何が良かったのか、さっぱり分からないのだが、まあ、リップサービスが良かったのだろう。一度、彼が属する教会に、アメリカに遊びに来た私の従妹を連れて行った。すると、痛く気に入ったようで、目をランランと輝かせていた。もっとも、従妹には彼氏がいたの相手には、されなかった。しかし、9人と付き合ったという事は、すぐにボロが出て別れて付き合ってとの繰り返しという事である。


 もっとも、最後の9人目とは、遠距離恋愛が続いていた。結婚の約束をしていると言う。フィアンセからは、「ジョナサン、いつ私をアメリカに呼び寄せてくれるの?」とひっきりなしに、国際電話で催促されているとも言う。そして、今度、日本に行って向こうの両親に会って結婚の許可を得てくることになった。でも、お前プーじゃ、どうしようもないジャンと私は言っていたのだが、日本に行ってなんとか許可を得てきた。


 もっとも、お父さんは渋い顔をしていたそうだが、まあ、当たり前ですわな。しかし、帰国してフィアンセ・ビザという婚約者の呼び寄せのペーパーにどうしてもサインができないと言う。なぜ、できないんだと言うと、「何度もサインしようとしたよ‼でも、できないんだよ‼」と、大きな声を出して、私を睨みつけた。お前、何俺に逆切してんの?って言ってやった。


 数日後、また会って、お前、例のフィアンセ・ビザにサインしたかと、聞くと、いや、向こうに電話を入れたと言う。なんて入れたんだって聞くと、「もう、僕に電話してこないでください‼」と目を吊り上げて言った。お前、そんなこと言って後悔するぞと言ったのだが、結婚してもうまく行かないだろうなあと思うのだった。

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