結構書いてたショート・ショート
加福 博
第1話 ミーちゃんという猫
私が、初めての激躁で入院し、退院して、反転し今度は、鬱の頃に図書館に向かう途中、土手からニャーニャーでかい声で泣いている猫がいた。見に行きたかっのだが、拾っても家族の許可が取れないと思い、そのままにしておいた。図書館で、四時間、何か興味のある本を読んで、帰宅途中、まだ猫がニャーニャー大声で泣いている。四時間も泣いていたのか。さっきは、無視してごめんね、と詫びながら様子を見に行った。ほんの小さな子猫だった。こんなに大きな声が出るのか。母親を探していたんだな。グレーと黒のサバトラの女の子だ。可愛い。
ディパックに入れて、帰宅。自分の部屋で、水とカリカリを与えた。母親に、猫拾ったからと言うと、怒りだした。もう、うちには二匹いるんだよ!というのが、理由であった。私が、昔は我が家には猫が、四匹いたやん、別に良いやん言うと黙り込んだ。そして、その子はどこにいるのか聞くので、自分の部屋にいると言った。そして、母親と部屋に入って、どこ?と言うので、ベッドの枕元と答えると、母親はうれしそうに子猫を抱いて「ニャー♡」。
うちには、他に二匹猫がいた。私はシロと呼んでいたが、父親がシロをちびと名付けており、今度のサバトラは、さらに小さいちびだ、と言うので、こちびと名付けた。しかし、私は、ミーちゃんと呼んでいる。先住の猫は、二匹とも狂暴だった。特にシロが悪かった。この子は、私が仕事で大阪城公園に行ったときに拾った猫だ。ガリガリに痩せた子猫で、口に大けがをしていた。すぐさま、動物病院に連れて行って、手術を受けさせた。手術は成功だった。シロは、すんなり家に迎え入れられた。
しかし、このシロが、ミーちゃんに嚙みつくのである。私は、鬱だったので、部屋に引きこもっていたのだが、ある晩、夕食時テーブルの下を見ると、噛まれたミーちゃんが、シロにためらいながら必死で、猫パンチを出していた。このシーンを思い出すたびに、胸が張り裂けそうになる。本当に可哀そうな事をしたなと思う。みーちゃんを私は部屋で大きくなるまで飼っておけば良かった。ミーちゃんは、シロに噛みつかれ過ぎたことが、原因なのか二週間に一度ほど「ガルー、ウウウ‼」と大声で、発狂したように家を走り回るようになった。PTSDの症状なのかもしれない。
その後、ミーちゃんは、私の部屋に住みつくようになった。シロは父親になついて彼の部屋に、そして、もう一匹の猫、彼女はリビングで寝ていた。もう一匹の猫はカムちゃんといったが、猫の缶詰を食べると吐くので、なるべく、カツオのたたきを細かく切って与えた。今になって思えば、非常に贅沢なことだったが、仕方ない。たたきしか食べないのだから…。
シロは、何でも食べた。夕食時食卓にあがって、人間様の食べる料理を食べていた。母親は、コォーレッ‼と言って、私にもっと怒りなさいと言うのだが、私は、シロちゃんコニャコニャと言って抱えて食卓から降ろすだけだった。父親は、食べているのを見て、コォラーッ‼と言うのだが、ちょっとだけやぞと言って与えていた。つまり、母親も私も父親もシロを怒れなかった。シロはいい匂いがした。それで、みんなに抱っこしてもらっていた。
一方、ミーちゃんは、引きこもりのようになってしまった。シロが怖いのである。実家は、木造で私の部屋は二階にあり、夏など暑くて地獄だが、ミーちゃんは辛抱強く引きこもっていた。17歳という高齢になったので、流石にここ数年は、部屋の温度を30度に設定しているのだが、寒さに弱いのか、階段の踊り場で寝ていたりする。そのミーちゃんが、カリカリを食べないようになってしまった。一週間ほど食べなかったので、コレはヤバいという事で病院に連れて行った。
原因は分からなかった。先生は、老衰でもないと言う。点滴を打って、帰宅するとその夜から少し食べるようになった。しかし、予断は許さない。ミーちゃんは、私の娘のような恋人のような存在である。特に私が精神障害者となって、一般の世界から分断されてしまった状況で、心を許せるのは、同じ精神の友人、親と彼女しかいない。もっと、長生きしてほしい。もし、昇天したら、私のペットロスは、計り知れないものになるだろう。今度、食べなくなったら、病院を変える。原因が分からないなど、やぶ医者の最たるものだから。
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