第20話

 私と奥谷君のデートは何事もなく終わった。手を繋ぐことも無く無言で見つめ合うわけでも無く、学校で話すときと何ら変わらない普段通りに変わらない奥谷君との楽しい時間だった。

 そんな私達の様子を亜梨沙ちゃんはどこかで見ていたらしく、私と奥谷君の事を色々と聞いてきたのだった。


「私は思うんだけどさ、奥谷君って女子人気が高いじゃない。それってさ、この学校だけじゃないみたいなんだよね」

「そうなの?」

「うん、私の友達が他の学校に通ってるんだけどさ、演劇部の王子様って呼ばれてるらしいよ。確かにさ、顔も良いし性格も良いからモテそうだとは思うんだけど、あまりにもルックスが良すぎるから私達じゃ隣に並ぶことも出来ないんじゃないかなって思っちゃうんだよね」

「亜梨沙ちゃんは可愛いし奥谷君の隣にいてもおかしくは無いと思うよ」

「それはさ、泉ちゃんが私の事を知ってくれているからそう思うだけでさ、私の事を知らない人が見たらきっとそうじゃないと思うんだよね。あのブスウザいなくらいに思われちゃうと思うんだよ。私もそう思うことあるしね。でもさ、奥谷君って一部では男子にしか興味ないって思われてたから、土曜日に泉ちゃんが奥谷君とデートしてたのって結構衝撃的な出来事だったんだよ」

「衝撃的って、あれはデートって呼んでいいのかわかんないけどさ、楽しかったことは確かだよ」

「でもさ、意外だったな。私も他のみんなもだけどさ、奥谷君の隣に相応しいのは泉ちゃんだけなんだろうなって話してたからね。そう話してたのってさ、泉ちゃんって奥谷君と幼馴染ってのもあってそういう運命なんだろうねって事だったんだよ。それなのにさ、泉ちゃんって奥谷君と仲が良い場面を全然見せてくれないしさ、本当は幼馴染ってのも嫌なんじゃないかなって思ってたりもしたんだよ。これは私だけじゃなくて、この学校の女子だったらみんな思ってることだと考えてるんだけどね」

「この学校の女子みんなって大げさだな。私は奥谷君は部活とかでも頑張ってるから有名なのはわかるけどさ、私って特に目立つような生徒でもないからそんな事を言われても実感なんてないよね」

「何言ってるのよ。泉ちゃんって女子人気凄いんだよ。スタイルも良いし顔も小さくてかわいいし、何よりも性格がいいからね。生徒だけじゃなくて先生方にも評判良いのってたぶん泉ちゃんくらいしかいないと思うし、奥谷君も性格いいから本当に二人はお似合いだと思うんだよね。奥谷君も泉ちゃんが相手だったら心を開いてくれると思うんだけどな。ってか、心を開いたような相手じゃないと一緒にカラオケデートとかしないよね」

「そんな事ないと思うよ。今回のだってさ、恋愛アプリのプレミアムフレンド何とかで貯まったポイントを使いたかっただけみたいだしね。奥谷君にはそんなつもりはなかったんじゃないかん」

「それは違うよ。そもそも、好きでもない相手とやり取りなんかしないだろうし、興味が無い相手だったらポイントが貯まるくらいやりとりなんてしないとおもうよ。梓ちゃんは結構ポイント貯まってるみたいなんだけどさ、それでもそんなにすぐに使えるくらいポイント貯めるのって難しいって言ってたもんな。もしかしたらさ、本当に奥谷君は泉ちゃんに興味あるのかもしれないよ。少なくともさ、嫌いってことは無いと思うな」

「じゃあ、またポイントが貯まったら誘ったりしても迷惑がられたりしないかな」

「そんなわけないじゃない。逆にさ、泉ちゃんに似合う男子って奥谷君くらいしかいないと思うんだよね。奥谷君の事を好きな女子が多いのと同じくらいに泉ちゃんの事を好きな男子っていると思うんだよね。このクラスだってさ、田中君がアピールウザいくらいでみんな黙ってるけどさ、泉ちゃんの事を好きな人って凄い多いと思うんだよ。そんなさ、人気者同士のカップルって、なんかいいじゃない。憧れのカップルって感じがして私は良いと思うよ。きっと、梓ちゃんもそう思ってくれるはずだよ」

「そうなのかな。私が奥谷君に相応しいって思ってもらえるのはありがたいと思うけどさ、奥谷君が私の事をどう思ってるのかってわからないしね。今はまだ時間をかけて知り合っていきたいなとは思うけどね。もちろん、付き合いたいとかそういう感情じゃなくて、今までずっと同じ学校に通ってたのに、お互いの事を全然知らないんだなって思うと、なんだか無性に寂しくなっちゃったんだよ」

「そうなんだね。でも、そうしてゆっくり前に進むのも泉ちゃんらしくていいんじゃないかな。私はずっと応援してるからね。でもさ、奥谷君と幼馴染って、山口さんもそうなんだよね?」

「そうだね。山口さんもずっと小さいころから一緒だよ。奥谷君と山口さんは物心つく前からの知り合いだったみたいだから付き合いは私より長いんだけど、そういう意味では、私よりも山口さんの方が奥谷君の事を知っているんだろうね」

「だろうね。でもさ、山口さんって奥谷君の事を全く相手にしてないよね。亜紀ちゃんの件があった後も山口さんを守ろうとしている奥谷君の事を邪魔者扱いしていたもんね。私はそういうところは好きになれなかったけどさ、亜紀ちゃんと梓ちゃんが山口さんとのことをちゃんと教えてくれてからは少し見る目が変わったんだけどね。でも、正直に言っちゃうと、私は山口さんとは友達になれないと思ったんだけどね」

「亜紀ちゃんたちってみんなに何があったか教えてたの?」

「そうなんだよ。本当はもっと早くに教えてくれる予定だったみたいなんだけどさ、亜紀ちゃんが休んでる間に私達が盛り上がりすぎちゃってなかなか言い出せなかったみたいなんだよね。それでも、梓ちゃんは私達が暴走し過ぎないようにしててくれたみたいだったんだけどさ、私達って完全におかしくなってたみたいでそれにも気付かなかったんだよ。あの時の私達は山口さんの事って亜紀ちゃんの事を傷付けた悪いやつくらいにしか思ってなかったからね」

「亜紀ちゃんと梓ちゃんが頑張って亜梨沙ちゃんたちを止めてくれたんだね。それは良かったよ」

「ホントだよね。私達もあのままだったら取り返しのつかないことになってただろうし、一歩間違えたら殺しちゃってたかもしれないんだよね」

「え、殺すってどういうこと?」

「たとえ話だよたとえ話。私も歩ちゃんも茜ちゃんも本気にはしてなかったんだけどさ、吉原君たちの先輩に悪い人がいるみたいでさ、山口さんの事を攫うとか奥谷君の事を襲うみたいなことを言ってたみたいなんだよ。それもね、奥谷君を襲うって言いだしたのって山口さんと一緒に写ってた奥谷君がイケメンすぎたからなんだって。そういう嫉妬って見苦しいよね」

「あのさ、それって、何も起こらなかったんだよね?」

「うん。その計画が出た次の日には私達は山口さんの事を聞いたからね。吉原君たちがその先輩に計画の中止を告げたみたいなんだけど、そんな中途半端なところで中止にされても襲う準備が出来てるのにどうするんだって話になってさ、止めるのが大変だったみたいだよ」

「気付かないうちにそんな大変な事が起こってたんだね。何も無くてよかったよ」

「それがね。何もなかったわけじゃないのよね。私と歩ちゃんと茜ちゃんは大丈夫だったんだけど、吉原君たちの家の周りにその人達が毎晩集まって騒いでたみたいなんだって。近所の人達の通報があってお巡りさんがやってきたりもしてたんだけど、お巡りさんがいなくなったらいろんな人が順番に来て騒いでたって言ってたよ。私達も怖くてしばらくの間は家から出られなかったんだけどさ、騒いでいた人達よりも偉い人がきてそれを止めさせたんだって。一応、その次の氷見様子を見ていたんだけど、騒いでいた人達が来なくなったから私達も普段通りの生活に戻ったんだよね」

「吉原君たちってもしかして不良なのかな?」

「違うと思うよ。中学の時の部活の先輩たちって言ってたからさ、もしかしたら不良とかじゃなくてただ悪い人なのかもしれないね」

「なんにせよ、みんなに何事も無くてよかったよ」

「全くだよね。私達も亜紀ちゃんたちの話を聞くのがもっと遅かったら大変なことになってたんだろうなって想像はつくからね。良くない事とは思うんだけどさ、山口さんが困ってる姿って見てみたかったかもしれないな」

「ちょっと、それは悪趣味すぎるよ」

「そうだよね。私も自分で悪趣味だなって思うもんな」


 私は口と表情はそう言っていたのだけれど、心の底では山口が酷い目に遭う姿を想像していた。苦悶の表情を浮かべる山口とそれを見つめる奥谷君と私。そんな光景を想像してしまった私は悪い人なんだろうなと、自分で感じてしまっていた。

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