第19話
奥谷君の包帯が取れたのは良かったけれど、奥谷君を襲った犯人はいまだに捕まっていない。もう少し早く捕まるのかと思っていたけれど、目撃者が一人もいなく防犯カメラにもそれらしい人物は映っていなかったようで、全くと言っていいほど手がかりは残されていなかったようだ。奥谷君も犯人を直接見ることは無かったようで、この事件が解決するまでにはまだまだ時間が必要と言った感じだった。
「山口の件だけどさ、若林たちが西森の話をちゃんと聞いてくれて良かったよ。そういうのって、外野が何か言うよりも本人に直接聞いて納得してもらえるのが一番だもんな。宮崎に相談してみてよかったよ。相談してなかったら今でも俺は若林たちの事を疑ってみてたかもしれないもんな」
「私も奥谷君の話を聞いた時はどうやって亜梨沙ちゃんたちを止めようかなって思ってたんだけどね。でも、私が何かする前に亜梨沙ちゃんたちがちゃんと亜紀ちゃんの話を聞いてくれて良かったよ。それが無かったらもう少し話はこじれていたかもしれないからね。それにしても、山口さんって不思議な人だよね。私だったら叩いてきた人を庇ったりできないと思うもん」
「そうだよな。山口って本当に不思議なやつなんだよな。何を考えているか全然読めないし、何にも考えてないんだろうなって思ってたら、相手の事を凄く考えていたりするもんな。俺にはわからないけど、もしかしたらずっと同じ学校に通ってる俺と宮崎の事も何か考えてるかもしれないよな」
「そうだったらいいんだけど、私って山口さんとちゃんと話したことって無いんだよね。奥谷君とこうして話しているのだって、高校三年になってやっとって感じだもんね」
「そう言えばそうだよな。ずっと一緒にいたような気がするけど、こうして話をするってのは今まで無かったもんな。山口がいなかったらこうして話をしないまま高校も卒業してたのかって思うと、なんか不思議な感じがするよな」
「確かにね。私は奥谷君と話をしてみたいなってずっと思ってたけどさ、なかなかタイミングが無くて話すことが出来なかったな。山口さんがいなかったら本当にちゃんと話をしないまま卒業してたかもしれないよね」
「だよな。それなりに話すタイミングなんてあったはずなのに、こうして話すことが無かったのって不思議な感じだよな。それにしてもさ、宮崎って話したりメッセだと気さくな感じがするよな。もっとこう、男子は話しかけにくい感じなのかなって思ってたからさ、ちょっとびっくりしたよ」
「もう、そんな印象持ってたなんてひどいな。私だって、奥谷君って女子の事全く相手にする様子も無くて男子が好きなのかと思ってたよ」
「そりゃないでしょ。俺が男好きな要素なんてどこにもないじゃん」
「ええ、だってさ、奥谷君っていっつも白岩君と田中君と三人でいるじゃない。他の男子とかって女子とも話したりしてるのを見かけるけど、奥谷君たちが女子と話しているとこってほとんど見たことが無いからね。そんな感じだったらそんな噂も出ると思うんだ」
「そんな噂って、俺は男好きじゃないからな。これだけは言っておくけど、俺は男好きじゃないからな」
「はいはい、そうですね。それよりもさ、奥谷君を襲った犯人って意外と見つからないもんなんだね。私はもっと簡単に見つかるのかと思ってたよ」
「そうなんだよな。俺もさ、人を襲うような危ないやつがいるんならさっさと捕まえて欲しいって思ってるんだけど、どこの防犯カメラにも怪しいやつは映ってなかったって言うんだよな。俺も後ろからいきなりだったから姿は見てないってのもあるんだけど、俺を殴ったやつって後ろポケットに入れておいた財布は取らずにコーラだけ持ってくって意味不明だよな。俺を殴ったのは木とか金属じゃなくてプラスチックじゃないかって言われたんだけど、そんなもんで殴られたからって気を失うとは思えないんだよな。人に殴られた経験があるわけじゃないから何とも言えないんだけどさ、コーラを飲みたいってだけでそんな風に殴ったりするもんなのかなって思うんだよ。宮崎も夜道は気を付けないとダメだよ」
「私は大丈夫だよ。家に帰った後に出歩くことってほとんどないし、そんな時でも一人で出歩いたりしないからね」
「それならいいんだけどさ、宮崎とか山口は夜に出歩いたりしないと思うんだけどさ、クラスの他の連中も気を付けて欲しいよな」
「そうだよね。私の周りの子たちは奥谷君が襲われてから夜に出歩かなくなったみたいだし、男子も気を付けて欲しいよね」
「だよな。俺も頼之も朋英も用事があっても一人じゃ出歩かなくなっちゃったな。そもそも出歩く用事も無いんだけどな」
「家にいるのが一番だよね。変な事に巻き込まれたくないからさ」
「ところでさ、このやり取りで貯まったポイントってどうすればいいんだ?」
「貯まったポイントはカラオケとかファミレスとかでも使えるよ。それこそ、コンビニでコーラを買うのにも使えるしね」
「カラオケとかファミレスってあんまり言った事ないんだよな。それと、今は何となくコンビニに行くのはちょっとって感じかな」
「そうだよね。でもさ、有効期限はそこまで長いわけじゃなくてもまだ余裕はあるんだし、それまでに使っちゃえばいいんじゃないかな。最悪、使わないでポイントが無くなったとしてもお金が減るわけじゃないからね」
「そうなんだけどさ、なんとなく貯まったポイントは使わないと損な気がしてな。俺は普段あんまりポイントが付くような買い物とかしてないし、全然こういうのって楽しいなって思った事なかったんだけどさ、宮崎とこうしてやり取りをしていると楽しいなって思うよ」
「それってさ、私とやり取りをするよりもポイントを貯めるのが楽しいって事?」
「違うって、宮崎とやり取りをするのが楽しくてポイントを貯めるのも楽しいってことだよ」
「なんだかそうは聞こえないんだけど、楽しいって思ってくれるならそれでいいとするかな。でもさ、貯まったポイントは好きに使っていいと思うよ。奥谷君が普段いかない店を開拓するのに使ってもいいんじゃないかな」
「じゃあ、さっそく使ってみようかな。宮崎も俺と同じくらい貯まっているのかな?」
「えっとね、今確認してみたら、2000円分くら貯まってたよ」
「俺と同じくらいだな。って、俺と宮崎のやり取りで貯まったポイントだから当たり前だよな。ちょっと確認してみたんだけど、一緒に同じ店でポイントを使ったら使えるポイントが50%アップだって。これってさ、2000円の50%アップって事なのかな?」
「そうだと思うけど、どうなんだろうね?」
「じゃあさ、せっかくだから一緒にポイントを使いに行かないか?」
「良いけど、二人で6000円分もポイント使える店なんてあるのかな?」
「別にさ、一回で使い切らなくてもいいんじゃないかな。何回かに分けて使ったっていいと思うんだけど、それって出来ないのかな?」
「使ったことが無いからわからないけど、梓ちゃんに聞いてみるよ」
私は恋愛アプリのポイントについて梓ちゃんに質問をしてみたのだが、今にして思えば梓ちゃんに聞かなくても公式で調べれば答えは書いてあったと思う。なぜ私が梓ちゃんに聞こうと思ったのかというと、梓ちゃんには恋人がいるのでどんな店をデートに使えばいいのだろうかという質問もあったからだ。
梓ちゃんは私の質問の意図を読み取ってくれたのかわからないけれど、デートでも使えるお勧めの店をいくつか紹介してくれた。
私は梓ちゃんの紹介してくれた店をそれとなく奥谷君に進めてみたところ、奥谷君が気になった店があったようで、来週の土曜日にそこに行ってみることとなった。今週ではなく来週にしてくれたのは奥谷君に用事があったからなのか、私の予定に気を使ってくれたのかわからないけれど、私は奥谷君と一緒にどこかへ行けるという事が嬉しかった。
「じゃあさ、来週の土曜日にね。楽しみに待ってるよ」
「おう、俺も楽しみに待ってるよ」
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