第21話

 私と奥谷君は山口の問題が解決した後も普通にメッセージのやり取りを行っていた。途中に何度か途切れることはあったのだけれど、その時には適当な理由を作って私が奥谷君にメッセージを送ることで完全にやり取りが無くなるという事はならなかった。

 それと同じなのかわからないけれど、黒髪のままの亜紀ちゃんは歩ちゃんと茜ちゃんとちょっと前のように仲良くなっていた。最近ではそこに亜梨沙ちゃんが加わることも多いのだけれど、亜紀ちゃんが前みたいに元気になっている姿を見れるのは嬉しかった。


「亜紀ってさ、意外と黒髪も似合うよね。前の明るい元気な方が亜紀って感じはするけどさ、今の落ち着いた亜紀もちゃんと亜紀なんだよな」

「そうだよね。いっそのことさ、梓ちゃんも髪色を大人しくしてみたらいいんじゃない?」

「それをやってもウチには似合わないと思うんだよな。アプリ使ってやってみたことあるんだけどさ、完全に日本人形みたいな感じになっちゃったもん」

「ええ、それって変だよ。今の髪形と全然違うじゃない。そのアプリがおかしいと思うよ」

「そうかもしれないんだけどさ、ウチってあんまりハッキリしてる顔じゃないからそうなっちゃったのかもな。ウチも泉みたいな感じだったらよかったのなって思うもんな」

「私は梓ちゃんの事を可愛いなって思ってるけどね。そう言えばさ、梓ちゃんは最近どこかでデートとかしたの?」

「ウチは全然デートとかしてないんだよな。向こうも忙しいし、ウチもダラダラとやることがあったりするからさ。あとでまとめてやろうかなって思っててもさ、溜めちゃうとウチって何もやらなくなっちゃうからこまめにやらないと後が怖いんだよね。そんなわけで、ウチはあんまりデートしてないんだけど、泉は奥谷とどうなの?」

「どうって言われてもさ、恋愛アプリのポイントが貯まった時にファミレスに行ったりするくらいだよ」

「貯まった時って、そんなに貯まるもんなのか?」

「気が付いたら結構貯まってない?」

「いや、ウチは結構通話とかしてる方だと思うんだけどさ、それでも五百円くらいしか貯まってないよ。ファミレスに行くくらい貯めるって、どんだけやり取りしてんだよ」

「ええ、私は結構ポイント貯まるんだなって思ってたけど、通話とメッセージってそんなに違うのかな?」

「どうなんだろうな。そこまで違いはあるとは思えないんだけど、もしかしたらさ、両想いと片思いでもらえるポイントが違うのかもしれないな」

「ああ、恋愛アプリだから両想いになるためにたくさん会いに行けって事なのかな?」

「そうなのかもしれないけどさ、片思いを否定しなかったって事は、泉って奥谷の事登録してるってことだよな?」

「ええ、どうしてそうなるのさ。そうだったとしてもさ、奥谷君が私の事を登録してるかもしれないじゃない」

「そうかもしれないけどさ、そうだったら両想いになってそうだなって思うんだよな。泉の事を見ているとさ、泉の視線の先には奥谷がいつもいるような気がしているんだよな。それに、どこかに行くときも泉から誘うことが多いだろ?」

「そんなことも無いと思うけど、それもある可能性はあるかもね。でも、奥谷君から誘ってくれたこともあるにはあるからね」

「それでもいいんだけどさ、ウチは奥谷が泉と付き合うのってありだと思うんだよね。他の子もそう思ってるだろうけどさ、泉に釣り合う男子って奥谷だけだと思うし、奥谷に釣り合う女子も泉だけだと思うだよね。いっそのことさ、告っちゃってみたらどうかな?」

「そんなこと出来ないよ。でもさ、梓ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいな」

「なあ、泉は絶対いけるって。いや、奥谷に告白しなきゃダメだって。高校卒業したらみんな進路はバラバラになっちゃうんだし、後で後悔しても取り返せないんだからな」

「そうだけどさ、まだ自信ないかも。梓ちゃんって自分から告白したの?」

「そうだよ。ウチはさ、相手の事を好きだって自覚した時からさ、後悔しないようにちゃんと気持ちを伝えようって思ったんだよね。気持ちを伝える前に誰かと付き合ったら嫌だなって思ったのも大きいんだけど、ウチは誰にもとられたくないくらい好きだって気持ちが大きくなってたんだよね。だからさ、奥谷が誰かに取られる前に告白しちゃいなよ」

「そうなんだけどさ、今の関係も楽しいなとは思うんだよね。ほぼ毎日やり取りは出来ているし、時々一緒に遊ぶことが出来るからさ。それでも私は満足してると言えばしているんだよね」

「でもさ、付き合うことになったら今とは違うことも出来るんじゃないかな。手を繋いだり腕を組んだりも出来ると思うよ。それに、亜紀も助けてくれた泉と奥谷が付き合ったら嬉しいんじゃないかな。二人を繋げたキューピットは亜紀って事になると亜紀も嬉しいはずだよ」

「それってさ、亜紀ちゃんが前みたいに元気な感じになれるって事なのかな?」

「たぶんね、亜紀は前よりも元気になるかもしれないよ」

「そっか、それならちょっと私も勇気を出してみようかな」


 亜紀ちゃんが元気になってくれるためにも私は勇気を出してみようかな。みんなも私と奥谷君はお似合いだと思っているみたいだし、奥谷君も私の事をきっと好きでいてくれるよね。それじゃなかったら、メッセージもデートも付き合ってくれないもんね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る